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『建築知識』ヒット企画は出版業界仰天の「働き方改革」が源だった⁉

『建築知識』ヒット企画は出版業界仰天の「働き方改革」が源だった⁉

出版業界はジリ貧である。1996年以来、業界売上は上を向いたことがない。出版社は刊行数を増やしまくる自転車操業を強いられ、コンビニの雑誌売場は縮小し、書店数は減る一方だ。

そして出版業界(というよりメディア業界全般)は、ワーク・ライフ・バランスや働き方改革からはかなり遠く離れたところにいる。「夜討ち朝駆け」という言葉が誇らしげに語られたり、休日出勤や長時間労働が当たり前だったり、末端の制作会社では給与が泣くほど安かったりする。

つい昨年まで業界に身を置いていた筆者も「朝4時にロケ地(注:伊豆の山奥)現地集合ね」という編集部に在籍したこともあるので、それらは身に染みて分かる。

こんな調子なので、最近はメディアが「ニッポンの企業は働き方改革が必要であーる、ワーク・ライフ・バランスを推進させるべきな」と声を張り上げるたび、各方面から「オマエもな」と突っ込みが入るところまでがデフォルトになっている。そのせいか、マスコミ志望者は減るばかり。

かたや、建設業界も過重労働などによって人材不足が叫ばれている。それでは、建設業界の書籍・雑誌出版の世界はどうなっているのだろう。調べてみたら、そこに一筋の希望の光があった。月刊誌『建築知識』(エクスナレッジ刊)だ。なにしろ斬新な企画を次々と実現させ、完売号を連発しているというのだから!!

この出版業界期待の建設パーソン?いや、建設業界期待の出版パーソン? に成功の秘訣を聞くため、編集部は乃木坂へおもむいた。

雑誌から書籍への構造転換

『建築知識』は1959年発刊。今年、創刊60年を迎えた建築業界の老舗雑誌だ。創刊当初は木造住宅の建築に際し、いまのように国が明確な法的基準を設けておらず、安全面や構造的な基準がまだまだ定かでない頃、職人さんが机の中にしまっておく「あんちょこ」的な存在だった。現場におけるひとつのメートル原器として、大きな役割を果たしていたのだとか。

しかし、いまはどうか。編集長かつ同社副社長の三輪浩之さんは、雑誌業界の厳しい状況をこう語る。

『建築知識』編集部を率いる三輪浩之さん。胸元に光るは「猫」バッジである。

「かつては当社も、雑誌をたくさん発刊していました。『ビデオ倶楽部』や『CAD&CGマガジン』、フランスの雑誌の日本語版で子供服専門誌『MilK』も当社が最初に手がけていました」

年間10タイトルほどを刊行する雑誌系出版社だったエクスナレッジ。経営判断を迫られて、年間150タイトルを刊行する書籍・雑誌系出版社へのシフトチェンジを決断したのは2008年頃の話だ。

雑誌は若手に任せ、もう一本の経営の柱を築くために、書籍制作に注力した。おかげで直近5、6年は書籍売上もとても好調だとか。他社に比べて単価は高いものの、その凝った装丁と質の高い内容の「紙の本」は思わず所有したくなる魅力にあふれている。

『最高においしい自然ワイン図鑑』のような翻訳本も手がける。「うちのデザイナーの選定基準は相当厳しい」というぐらい、装丁や手触りにこだわりを持っている。

『アニメ私塾流最速でなんでも描けるようになるキャラ作画の技術』は定価2,400円なのに6万部も売れたとか!!

現在残っている雑誌は、一級建築士などが対象の看板月刊誌『建築知識』と、工務店や住宅・リフォーム会社で働く人のための季刊誌『建築知識ビルダーズ』のみ。堅く売れる書籍にシフトした流れからすれば、これらの雑誌も休刊にしてもおかしくない。しかし三輪さんは、きっぱり否定した。

「雑誌があるからこそ、いろいろな情報が集まってきて、建築技術書がつくれるんです」

たしかに名刺代わりの看板雑誌なのだから、やすやすと潰すわけにはいかない。そうはいっても、赤字を垂れ流してばかりでは社内の立場も悪くなるだろうし、売れないと分かっているモノをつくるのはしんどい。編集部のモチベーションも下がるばかりでは?「ええ、『建築知識』も部数はずっと落ち続けていました。編集部の雰囲気は暗いし、売れた経験がないと編集者も伸びない」と三輪さん。売上も年あたりでおよそ10%ずつ、低下していたという。

そこで3年前、新規読者を獲得するための誌面リニューアルを決断した。特集キーワードは“猫”だ。発案者は猫好きの三輪さんである。

「わたしが猫を飼っていたのもあって、きっとニーズがあるはず! と。『猫なんて、アホじゃないか』ぐらいにさんざん言われましたが(笑)」

2017年1月号特集「猫のための家づくり」。記念すべき猫特集第1回目。

2019年4月号特集「海外に学ぶ猫のための家づくり」。これまでの反省を込めて、あらためて“猫ファースト”でつくりこんだのだとか。3度目の猫……ならぬどじょうは狙えるか?

売上が落ちて苦境に追いやられた雑誌のリニューアルは、だいたい失敗する。悲しいかな、それは「出版業界あるある」だ。ところがどっこい、この猫特集は大きな話題を呼び、大ヒットした。それを転機に年間10~15%ずつ、売上も上がっているんだとか。

この時の挑戦を三輪さんは「保守的にやっぱり売れなかったというのは、何も得るものがないんじゃないかなと。当たるにせよ外れるにせよ、挑戦したことで編集部自体も明るくなる。外したらわたしのせいだし」と振り返る。

これに広告が下支えする。たとえば3回目の猫特集(2019年4月号)では、猫に関連する建材メーカーからの広告出稿が相次いだ。これは過去2回の猫特集がほぼ完売した実績の賜物だ。PR記事も広告部に所属する元編集部のスタッフが担うため、「編集不可侵」の原則が損なわれることはなく、編集部は安心して制作に注力できるようになった。

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「建設の匠」編集部
「建設の匠」編集部
「建設の匠」編集部の中の人。ひとりで取材したり記事を書いたり写真を撮ったりしております。ツイッターは@KensetsuTAKUMI、フェイスブックは@kensetsutakumi2018。
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