「巨匠になりたい」とうそぶく建築YouTuber“しばたまる”は、建築学生の生きる道を模索する骨太青年だった

「建築学生が個人設計事務所で働くことに憧れを抱かなくなった」。
とある資格専門学校の方がそう嘆いていた。建築学生が建築設計事務所を目指さなくなったらどうなるか。後継者のいない事務所は廃業していくかもしれないし、そこの建築設計の匠の技は伝承されなくなるだろう。みんなが就職先に発注側を目指す状況も、健全とはいえない。
そもそも、オープンデスクにおける無償労働問題で顕在化したように、「建築設計界隈にお金が回っていない」というシンプルだが哀しい現実がある。では、発注者に設計料をアップしてもらえば、これにて話は一件落着……なのだろうか。
そこで建築設計を愛する、ひとりの青年にコンタクトを取った。
ぼくは世の中にまるめこまれたくない
「ぼくは性格が悪くて、ひねくれているんですよ、昔から」
その青年は静かに、自嘲気味に、しかし内に熱を帯びた口調で言う。
「いまの建築学生の建築家への目指し方は、基本的にはコンテストに出して、賞を獲って、有名な設計事務所やゼネコンなどの設計部に行く。賞が獲れない子はだいたい望むような就職先には行けない――そういう就職先に行けなければ、独立したときにネームバリューがつくれない構造なので、必然的に設計を頑張る子は設計コンテストにがんばるし、アトリエ系事務所にオープンデスクに行くんですよ。
つまり将来への道筋でそういったことをしないと、建築家や設計者として食べていけないというレールを業界全体が敷いている。ある意味、学生時代から世の中に丸め込まれている感をすごく感じていて。
頭が切れて、要領よくこなせて、提案力のある子がいい設計部に行って、独立して、仕事も来て……それはそれでいいんです。コンペもよくおこなわれるんですけれど、“コンペ力”勝負みたいになっている。
でも『建築ってコンペだけじゃないよな』と思うことがすごくある。たとえば一年間、お年寄りの家に通ってしっかり溶け込めて、その地域に合う住宅をつくるのに向いている子もいる。でもそういう子たちはいまの仕組みでは建築家へのレールに載れない。でもなかなかうまくいかないことが分かっていても、コンペ参加やインターンせざるを得ない現状がある」
彼の名は「しばたまる」。愛知出身の24歳である。「しばた」が姓なんだろうが、なぜ「まる」が付くのか、突っ込んでもあまり意味がなさそうなので、それは置いておこう。
しばたまるさんは「しばたまるは巨匠になりたい。」というブログを開設している。
建築に関して配信するYouTuberでもある。

ブログ「しばたまるは巨匠になりたい。」より
現在のところ、企業や事務所には属していないらしい。どうやって収入を得て生活しているのか。謎だ。そもそも怪しい情報商材を売る意識高い系パーリーピーポーっぽい人だったら筆者(おっさん)は話についていけるんだろうか。一抹の不安を覚えながらインタビューに臨んだのは事実である。
ところがどっこい、前述のような問題意識を語り出した彼。この思考の源とは……?

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