中銀カプセルタワービル・コレクション【ザ・メタボリズム】

築46年、地上13階・11階建てで140戸(すべてワンルーム)。
銀座には歩いて10分程度だけれど、部屋の広さはわずか10㎡。
それでも、たまに出てくる賃貸物件はだいたい7万円前後――。
条件だけ見ればお世辞にも良物件とはいいがたい。しかし、ある意味で銀座でもっとも有名なマンションであり、全国の建築好きを惹きつけてやまないマンション。それが、中銀カプセルタワーだ。ちなみに「中銀」は、「ちゅうぎん」ではなく「なかぎん」と読む。しかしその意味は「中央区銀座」なので少しややこしい。
中銀カプセルタワーを設計したのは黒川紀章。1960年にメタボリズム(“新陳代謝”の意味から転じて、人口増加&技術発展に応じて更新される都市の成長を説く建築運動)を提唱した建築家である。カプセルタワーは彼の理論をきわめてシンボリックにあらわしたもので、基礎構造はそのままに、カプセルは一つひとつが取り外し交換できて、25年ごとにカプセルが交換される想定だった。もっとも、実際のところ、カプセルが交換されることは一度もなかったのだが……。
これまで施設の老朽化やアスベスト問題によって何度か解体・取り壊しの危機に瀕しており、2018年6月には中銀グループから所有者が変わった。ふたたび解体と再開発の話が持ち上がったが、国内外の熱烈なファンたちに支えられ、現在、保存・再生に向けて署名活動などの取り組みがなされている。
40年以上が経過して、竣工時に備え付けられた設備の維持は難しくなっており、居住者によってリフォームされたカプセルも多い。しかしオリジナルの部屋を見ることも可能だ。
たとえばさいたま市・北浦和公園の一角に、同ビル1階の展示物で、美術館展示を経て2012年に埼玉県立近代美術館(黒川紀章設計)に寄贈されたカプセルの一室が、ころんと置かれている。このドラム式洗濯機のようなカプセルは、竣工時の雰囲気がきれいに保たれている。
また現在、「中銀カプセルタワービル保存・再生プロジェクト」により、当時の趣を残す部屋を見学できるツアーが実施されている。土日の昼頃、50分程度の見学が可能だとか(参加費は3000円)。
いずれにおいても、2018年のいま、丸い窓越しに覗く1972年時点の“近未来的景色”は、あなたの心をゆさぶるはずだ。
稀代の個性派マンション、見ておくならいまのうちかもしれない。
- 所在地
- 東京都中央区銀座8丁目16−10
- 用途
- 住宅・マンション
- 階数
- 13階、11階
- 戸数
- 140戸
- 敷地面積
- 441.89m²
- 延床面積
- 3,091.23m²
- 建築面積
- 429.51m²
- 着工年月
- 1970年
- 竣工年月
- 1972年4月
- 発注者(事業主)
- 中銀マンシオン株式会社
- 設計者
- 黒川紀章建築都市設計事務所
- 構造設計者
- 松井源吾+ORS事務所
- 施工者
- 大成建設株式会社
- 構造
- 鉄骨鉄筋コンクリート造、一部鉄骨造
- 規模
- 地上11階・13階、地下1階
- 建材
- 外板:ボンデ鋼板1.2 防錆塗料焼付け・ケニテックス吹付け
