パレスサイドビル・コレクション【お堀端のモダニズム建築】

皇居(パレス)のお堀端(サイド)にあるから、パレスサイドビルである。そのまんまの名前である。かつてこの近辺に勤めていた筆者としては、馴染みの深いオフィスビルだ。このビルには、魅力が満ち満ちている。
設計は林 昌二(日建設計工務、現在の日建設計)。限られた予算や時間内で資材などを工夫し、豊かな空間を作り上げる「貧困の美学」の名手である。
ただ、かつてこの地には名建築と称されたリーダーズ・ダイジェスト社屋があった。それを取り壊してまでして、新たにビルを建てることになったというのだから、その重圧は推して知るべし。しかし林は見事に期待に応え、モダニズム建築の傑作(1999年DOCOMOMOの20選に選定)を生みだしたのだった。
パレスサイドビルの構造上の特徴といえば、コア部分(階段・エレベーター・機械室)をビル棟の端に集約したことだろう。外観においても、白い円柱状のコア部分は強いアクセントになっている。しかもそれが東西に2本もそびえ立っている!
玄関部分の“アンブレラ”とよばれる大庇や、重厚な茶褐色のレンガ積み、キャストアルミ製の水平ルーバーと雨樋・雨受けが、このビルの個性をいっそう引き立てる。見かけだおしの個性ではなく、機能をしっかり伴っているのだから驚かされる。
とうとうと語ってきたが、個人的にパレスサイドビルの魅力は、屋内にあると思っている。
空飛ぶ円盤のコントロール・ルームのような不思議なエレベーターホール、1階の中央廊下と地下1階コンコースの吹き抜け空間をつなぐ“夢の階段”のアートのような美しさ、重厚な玄関&階段……素晴らしいディテールは枚挙にいとまがない。あえてここでは写真を示さないので、ぜひ見学していただきたい。なお、平日見学の際には、昭和感満点の洋食屋・カレーの店 タカサゴで昭和なランチを食すことを切におすすめする。
- 所在地
- 東京都千代田区一ツ橋1丁目1−1
- カテゴリ
- 高層ビル
- 用途
- オフィス
- 階数
- 地上9階、地 下6階、塔屋3階
- エレベーター数
- 18基
- 駐車場台数
- 約300台分
- 敷地面積
- 11,275㎡
- 延床面積
- 119,625㎡
- 建築面積
- 8,596㎡
- 着工年月
- 1964年7月
- 竣工年月
- 1966年9月
- 設計者
- 日建設計工務株式会社(現・株式会社日建設計)・林 昌二
- 施工者
- パレスサイド・ビル新築工事共同企業体(株式会社大林組、株式会社竹中工務店)
- 管理運営
- 株式会社毎日ビルディング
- 構造
- 鉄骨鉄筋コンクリート造
- 規模
- 地上9階、地 下6階、塔屋3階

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