京都タワー・コレクション【鉄骨はないけど気骨はある革新の塔】

のっけから自分語りで恐縮だが、筆者は学生時代を京都で過ごした。就職活動は超氷河期。志望業種の関係で夜行バスに乗って東京へもよく通った。面接を終えてまたも夜行バスに乗り、だるさと眠れなさとふがいなさでくたくたになって早朝にバスを降りる。見上げればそこにはいつも京都タワー。やわらかな曲線を描いて立つその姿に、いつもホッとさせられた。
さて、当時からいままで、京都タワーはずっと“ろうそく”を模したものだと思い込んでいたのだが、「海のない京都の街を照らす灯台をイメージ」したものだと公式Webサイトを見て、ちょっとしたパニックに陥っている。「寺社仏閣=ろうそく」ではないのか。下の食堂部分(展望室2~3階)なんてどうみても燭台でしょうが!
京都タワーは他にもいろいろとこちらの思い込みを裏切ってくる。東京タワーや通天閣のような鉄骨造で、それを外皮で覆っているのだと思い込んでいたら、まさかの応力外皮構造を採用していて、内部に鉄骨を一切使用していない。細いくびれを持っているのに台風にも地震にも耐えられる意外に強靭な体躯なのだそうだ。
さらに建築とは関係ないけれど、タワー下のビル部分は、おみやげ屋どころかレストランもホテルも大浴場もある一大レジャー施設だったりする。1日あたり約20万人が利用する巨大駅の前に、まさか銭湯があるだなんて……(夜行バス帰りには嬉しい)。
とはいえ、完成当時から「景観を損なう」として大論争を巻き起こしてきた京都タワー。たしかに純和風建築があふれる「KYOTO」への世間一般のイメージを裏切る、異端な存在なのかもしれない。しかし、京都はもともと古いモノを守るだけの街ではなく、けっこう新しいもの好きである。「伝統は革新の連続」を体現する街なのだ。
だから古いモノを求めて訪れた観光客を、玄関口から京都タワー&京都駅ビルの革新スペシャルコンボでいきなり裏切ってくるのが「千年の都」の奥深さである。「ウチは古いだけやおまへん、革新の街どすえ」とカウンターパンチをかます。
いまだ賛否両論な京都駅ビルよりもずっと前に、人々をざわつかせた革新のタワー。そしてもはやけっこう馴染んでいる。京都タワーの設計で京の街に革新的建築物の道を切り拓いた建築家・山田 守に、あらためて喝采である。
なお、すでにご存知だと思うけれど、この山田 守の孫であるY田Y子さんの連載がはじまった。ぜひ、ご期待いただきたい。
- 所在地
- 京都府京都市下京区東塩小路町721−1
- カテゴリ
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- 用途
- スポーツ・レジャー / ホテル / 商業施設
- 階数
- ビル部分:地上9階・地下3階,タワー部分:5階
- 敷地面積
- 2,783㎡(ビル部分)
- 延床面積
- ビル部分:26,256㎡,タワー部分:1,021㎡
- 着工年月
- 1963年2月1日(ビル部分)
- 竣工年月
- 1964年12月25日
- 発注者(事業主)
- 株式会社京都産業観光センター
- 設計者
- 山田守
- 構造設計者
- 棚橋 涼(京都大学工学部建築学教室)
- 施工者
- 株式会社大林組
- 管理運営
- 京阪ホテルズ&リゾーツ株式会社
- 構造
- モノコック(応力外皮)構造
- 規模
- ビル部分:地上9階・地下3階,タワー部分:5階
- 高さ
- 地上131m(ビル+タワー)
- 建材
- 特殊鋼板

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