浅草寺コレクション【最新技術で大幅ダイエットに成功した東京最古の寺】

浅草といえば、なにをおいても浅草寺(せんそうじ)だ。その歴史は東京でもっとも古く、本尊は飛鳥時代から存在するとされ、「浅草寺」の名は鎌倉時代から文献にある。平安時代の大地震や火災にもめげず、関東屈指の古刹として栄えてきた。
さて今年、火事で焼け落ちてしまったノートルダム大聖堂の例を挙げるまでもなく、文化財の大敵は天災や火災である。
江戸時代初期の1649年に建てられた旧本堂はずっと火事を免れてきたそうで、江戸時代の文献には「火が至近になると雨が降る、あるいは風向きが変わるなどの霊験が再三起きた」と記されているほど。関東大震災で浅草寺裏手の高層建築・凌雲閣が半壊しても、旧本堂等は崩れることなく、火の手も免れた。
さすがに1945年の東京大空襲では焼失してしまったけれど、現在建つ本堂にも見るべき点は多い。本堂は鉄骨鉄筋コンクリート造りで1958年に再建され、その設計は伊東忠太の門下である大岡 實(みのる)に委ねられた。
大岡は「人々の浄財によって造られる宗教建築が一度の火災によって烏有に帰し、又々巨大な財力を集めなければならないという様な事は技術家としてなすべきではない(中略)再びこのような材料は集まらないと同時に費用も大へんな額になるわけで、構造は費用・防火の点から木造でやるべきではない」(『昭和本堂再建誌』、昭和33年 浅草寺刊)と述べていた。
さて、目を惹くのはその巨大な屋根。2000年代に入って耐震診断・補強をおこない、さらに2010年、屋根瓦の脱落防止のためにあらたな瓦が葺かれた。その材質とは……チタンだ。
チタンはフジテレビFCGビルの球体“はちたま”にも使用されているように、その軽さと硬さと錆びにくさがメリット。しかし、非常に硬いというメリットが裏目に出て、瓦のような複雑な形状には加工できなかったのだ。
しかし栃木県の社寺建築の匠である(株)カナメと新日鉄住金が技術革新をおこなった甲斐あって、見事にチタン成型瓦開発に成功。その重さは約3kgの土瓦に対して90gしかない。結果、屋根重量は約930トンから約180トンになったというから驚きだ。これほどに軽量のため、建物や駆体にかかる負担が軽減される上、落下の心配もないために参拝客も安全である。さらに漆喰(しっくい)を使用しないため、長期間メンテナンス不要となり、かつ雨漏りの心配もないのだとか。
「チタン成型瓦」は日本でこの浅草寺本堂がはじめてで、その後、宝蔵門、そして五重塔にも使用された。現在は日本で百以上の社寺建築に使用されているのだとか。初期費用だけで比べれば瓦より割高だが、ランニングコストやその他メリットを考えれば、地震大国ニッポンで今後普及が進むのも間違いない。
木造からコンクリートへ、土瓦からチタンへ。防災や減災を見据えて先鞭をつけたのが東京最古の寺・浅草寺という事実に、なんだか胸が熱くなる。
- 所在地
- 東京都台東区浅草2丁目3−1
- 用途
- 伝統建築
- 階数
- 地上1階、地下1階
- 改築
- 2010年12月
- 延床面積
- 3,407.9㎡
- 建築面積
- 1,368.8㎡
- 着工年月
- 1951年5月19日
- 竣工年月
- 1958年10月15日
- 発注者(事業主)
- 浅草寺
- 設計者
- 大岡 實
- 施工者
- 清水建設株式会社

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