すみだ北斎美術館コレクション【街に溶け込む斬新なかがやき】

ロシアの高層マンション外壁に作品が描かれるほど人気の浮世絵師、の美術館。
葛飾北斎といえば、日本を代表する浮世絵師である。彼が描いた『冨嶽三十六景』などの作品は日本国内だけでなく、ゴッホやゴーギャンなど遠い国の絵画の巨匠や、名建築家フランク・ロイド・ライトにも影響を与えたといわれている。いまも世界中で高い人気を誇り、2019年にはロシア・モスクワで『冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏』を壁面に描いた高層マンションが建ったほどだ。
今年は没後170年目にあたり、来年には彼の人生を題材にした映画『HOKUSAI』(主演:柳楽優弥&田中 泯)も公開される。幾度となく雅号を変え、90年の生涯で93回も引っ越しを繰り返したという奇人・北斎がどう描かれるのか、実に興味深いところである。
さて、そんな北斎に関する美術館はこれまで全国に3つあった。1976年に開館した長野県・小布施町の「北斎館」、島根県・津和野町にあった「葛飾北斎美術館」(1990年開館、2015年閉館)。そして3つ目が、2016年に開館した東京・墨田区の「すみだ北斎美術館」である。
すみだ北斎美術館は北斎生誕の地・亀沢に建つ。建設された場所には、かつて弘前藩津軽家の大名屋敷があった。この藩主からの依頼により、北斎は屏風に馬の絵を描いて帰ったそうだ。区立緑町公園の一画にちょこんと建っているこの建築は近くにある巨大な江戸東京博物館と比べると、そのコンパクトさに驚く。
実は、すみだ北斎美術館の建設計画自体は1989年からあった。計画はいったん頓挫するも、東京スカイツリー建設が決まると、それに合わせて建設計画は復活。北斎作品の一大コレクターだったピーター・モース氏や、浮世絵研究の第一人者・楢崎宗重氏のコレクションが寄贈されることになった。
では、どんな箱に収めるか。そこで建築界のノーベル賞といわれる「プリツカー賞」を2010年に受賞した、妹島和世氏に白羽の矢が立った。
妹島氏は、きわめてスタイリッシュな建築を生み出した。その中でももっとも特徴的な外壁のアルミパネルは、1250mm×5600mm、厚さ3mm。アルミパネルを鋭角に切り裂いたようなスリットによって、四方から建物内に出入りできる。
このアルミパネル外壁の淡い輝きは、光沢度の高い光輝アルミ合金を電解研磨処理&エッチング処理&シルバーアルマイト加工によってもたらされている。最近、西武鉄道の特急列車「Laview(ラビュー)」のデザインを手がけた妹島氏だが、どちらも斬新でありながら、街や風景にやわらかく溶け込む点で共通しているようだ。
アルミパネルを見て「こんな高度な匠の技を駆使することができるのは、まさか……?」と調べてみたら、やはり。フジテレビFCGビルの球体展望室“はちたま”の外装チタンパネルを手がけた菊川工業の仕事である(菊川工業は墨田区が創業地だ)。
絵を描くこと以外は無頓着だったという奇人・北斎だが、この斬新な美術館を見れば、憎まれ口を叩きつつもニヤリとするのではなかろうか。
- 所在地
- 東京都墨田区亀沢二丁目7番2号
- カテゴリ
- 高層ビル
- 用途
- 文化・研究施設
- 階数
- 地上4階、地下1階
- 敷地面積
- 1,254.1m²
- 延床面積
- 3,278.9m²
- 建築面積
- 699.7m²
- 竣工年月
- 2016年11月
- 発注者(事業主)
- 墨田区
- 設計者
- 妹島和世建築設計事務所
- 施工者
- 大林・東武谷内田建設JV
- 構造
- 鉄筋コンクリート造(一部鉄骨造)
- 高さ
- 21.9m

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