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萩原雅紀の「ダム」道。【04】バージョンアップで復活!不死鳥のダムたち

萩原雅紀の「ダム」道。【04】バージョンアップで復活!不死鳥のダムたち

稀に負けるヒーロー

変身したり、合体してロボットになったりして、突如出現した怪獣に立ち向かうヒーローたち。初めは苦戦しつつも最終的に必殺技が炸裂して敵を粉砕、と毎週お決まりのパターンを繰り返す彼らは、基本的に負けることがないだろう。負けたら番組終わっちゃうし。

同じように、市民にとって大きな脅威となる洪水や渇水と戦うダムも、ヒーローと言えると思う。だけど、大雨や渇水は毎回規模もパターンも違う。そしてそんな相手に対して死力を尽くして戦っても、実は稀に負けることがある。

もちろんほとんどの場合は勝っています

いや、負けるという表現は適切ではないかも知れない。設計されたときに想定した以上の雨や日照りが続くと、そのダムが持つ能力をフルに発揮しても災害を防ぎきれないことがある、ということだ。降り続く大雨に耐えきれず洪水が発生したり、逆に雨が降らずに貯水池が空になって、断水が起こってしまったり。

ダムは完全じゃない

ここでいちばん大切なのは、もともと「ダムは完全ではない」という事実を知ることである。

ダムができたからと言って必ず洪水や渇水が防げるわけではない。災害が起こる確率は確実に低くなるものの、決してゼロではないのだ。そして、いちど災害が起こったからと言って役に立たなかった、ということでもない。それまでに人知れず防いだ災害は数多くあるだろうし、川の氾濫から人々が逃げる時間を稼いだり、取水制限や断水を少しでも短くする効果は確実にある、ということは流域に住む人だけでなくみんなに認識してほしい。

平成30年7月豪雨で想定を大きく上回る量の水が短時間で押し寄せ、下流の被害を防げなかった鹿野川ダム

いっぽう、自分の能力を超えた自然の猛威を目の当たりにしたダムはどうするかと言うと、構造や運用を改良して出直すのだ。二度と同じ被害を出さないために。

放流設備を増やしてパワーアップ!

改良の方法はいくつかあるのでタイプ別に説明しよう。ひとつ目はダムの堤体はそのままに、放流設備を増やすという方法。

たとえば福井県の真名川に設置された笹生川ダムは、1965年に発生した「奥越豪雨」の際、設計時の想定のおよそ3倍もの流入量に見舞われて放流が追いつかず、貯水位が上がり続けて堤体全面から水があふれ出る事態になってしまった。

笹生川ダム。ゲート放流だけでは追いつかず、この堤体全面から水があふれ出たという

当然、流量のコントロールはできず、下流の村が洪水と土砂崩れで壊滅するのを防ぐことができなかった。そこで、貯水池からダム下流までトンネルを掘り、水門を設置して新しい放流設備を増設。放流能力を上げて奥越豪雨級の流入量にも対応できるようにして戦線に復帰した。

笹生川ダムが増設した放流設備。赤い水門から流れ出た水は右の山の中を貫くトンネルで下流へ

その後、2004年の福井豪雨では洪水調節の役割を果たし、見事に雪辱を晴らした。貯水池からトンネルを掘って放流設備を増設する同様の工事は、堤体に手を加えることが難しいアーチダムや幅の狭い重力式コンクリートダムで放流設備を増設するため、京都府の天ヶ瀬ダムや愛媛県の鹿野川ダムなどでも行われている。

天ヶ瀬ダムで行われているトンネル工事現場

鹿野川ダムで工事が行われているトンネル内部

鹿児島県の川内川に建設された鶴田ダムも、2006年に発生した「平成18年7月豪雨」の際、5日間で年間降水量の約半分が降るという豪雨に見舞われた。ダムへ通じるすべての道や通信、電力などのライフラインが寸断され完全に孤立する中、必死の洪水調節を行なったものの、途中で貯水容量を使い切る事態になってしまう。

その結果、洪水調節ができなくなり、流入量と同じ量を放流する「異常洪水時防災操作」へ移行、下流の大洪水を許してしまった。完成以来、何度か運用を見直して大雨への備えを万全にしていただけに、痛恨の黒星と言えるだろう。

蘇るため大手術中の鶴田ダム(すでに工事は終わっています)

その後、鶴田ダムは貯水池の運用をさらに見直し、堤体に穴を開けて低い位置に新たな放流設備を設置するという大手術を受けた。大雨が予想されるときは、発電用に貯めている水や、これまで構造上使えなかった低い水位の水まで事前に放流して徹底的に水位を下げ、洪水調節容量を大きく取ることができるようになって蘇ったのだ。まさに不死鳥である。

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WRITER
萩原 雅紀
萩原 雅紀
ダムライター、ダム写真家。1974年東京生まれ。ダムと名のつくものすべてを対象に、ライフワークとして「ダムめぐり」を続けている。これまで訪れたダムは国内外合わせて500基以上。毎年末に「日本ダムアワード」を主宰。ダムカードの発案にも携わる。著書に『ダム』『ダム2』(メディアファクトリー)、『ダムに行こう!』(学研プラス)等。
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