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萩原雅紀の「ダム」道。【05】重力式ダムだってダイバーシティ

萩原雅紀の「ダム」道。【05】重力式ダムだってダイバーシティ

ダムの魅力は大きさと放流、そして似ているようですべて違う形

ダムならではの魅力として挙げられるものに、その大きさや放流の迫力がある。ダムは高さが15m以上(つまり最低でも15mある)、という定義は以前に当連載で書いた通りだし、大量の水をせき止めたり放流したりできるのは、数ある建造物の中でもダムだけである。巨大さと放流の迫力は、誰でも心を打たれる分かりやすさがある。

巨大なダムのいちばん上からの放流は最高のごちそう

そして、魅力を感じるところから一歩進んで興味を持つようになると、ダムにはアーチ式やロックフィルといった、いくつかの型式があることに気づく。さらに、同じ型式でも目的や地形、川の流量などによって堤体の規模、そして放流設備の種類や数が変わり、ひとつひとつ異なる表情をしているのだ。逆に言えば同じ形、同じ条件のダムはふたつとない。だから見てまわると楽しい、という点は、たとえばお城や寺社などと同じである。

そこで今回は、この「同じ型式でも同じ形のダムはない」という点にテーマを絞って解説したい。例として、ダムの中でもっともポピュラーと言われている、重力式コンクリートダムという「種」を系統樹のように分類して、その多様性を見てみよう。

ダムは水を貯めるもの、ただ明日へと、永遠に

ではまず、すべての重力式コンクリートダムの基本となるシンプルなダムに登場してもらう。いろいろ分岐していく図のいちばん根元にある形だ。

「こんにちは、基本の重力式ダムです」

本当はもうちょっと小さめの、もっとシンプルなダムを探したのだけど写真がなかった。

このダムの場合、ダムのいちばん上(クレスト部といいます)に放流口が開いていて、ダムに水が貯まり、これ以上は貯めない、となったらその口から水が真っすぐ下に流れ落ちる。水門などでコントロールするわけではなく、貯水池の水位が上がり、乗り越えた分が自然に流れ出る仕組みだ。

こういった放流設備を「自然越流式洪水吐(しぜんえつりゅうしきこうずいばき)」と言う。

あと、堤体の上にピョコッと飛び出している塔がある。これは選択取水設備と言って、貯水池の好きな水深を選んで取水(放流するために水を取り入れること)ができる装置。

たとえば下流の魚や農作物に影響が出ないように表面の暖かい水を放流したり、大雨のあとで濁りの濃い水深の水を積極的に放流して貯水池の濁りを減らす、といったことができるのだ。取り入れた水はパイプで堤体の中を通り、発電所に送ったり、堤体のすぐ下流に放流できたりする。

どんな目的のダムであれ、クレスト部の自然越流式洪水吐と取水設備ひとつ、というのがダムを構成するもっともシンプルな要素だと思う。

クレスト部の洪水吐とは、身近なもので言うと洗面所のボウルについている穴だ。これがないと、大雨などで貯水池の水位が上がったときに堤体の上を水が乗り越えてしまうので、基本的にはどんなダムにもついている(まれに洪水吐がない特殊なダムもある)。また、洪水吐より下の水位の水を放流するために取水設備も必要だ。

というわけで、この状態がダムのベースグレードと言えるだろう。車ならカーナビもパワーウインドウもついていない白い大衆車、ピザならマルゲリータである。ではここから堤体を進化させて、ダムをいろいろな条件に対応させていこう。

川の流量が多かったら

たとえば、大雨が降ったときに流れる水の量をもっと多くしてみよう。つまり川幅が広く、ベースのダムよりも多くの水を下流に流すことができる(流しても安全)なのだ。そんなときどうするかと言うと、クレスト部の自然越流式洪水吐の数が増える。

もっと正確に言うなら、自然越流式洪水吐の横幅が広くなる。「自然越流式洪水吐の数」というのは、上に橋が架かっている場合の橋脚の数でしかないからだ。

「自然越流式洪水吐、5つに増やしときました」

厳密には、最初のダムとこのダムでは規模が違いすぎるので単純比較はできないけど、洪水吐の幅を増やして放流できる量を増やしている。洪水吐を増やさないと、上流から流れてくる水の量に放流量が追いつかず、貯水池の水位が上がり続けて堤体の上を水が越えてしまう恐れもあるのだ。

「今は端から端まで全部洪水吐にした方がインスタ映えするんすよ」

最近はこんな感じで、遠慮なく端から端まで洪水吐が並んでいるダムも増えている。洪水吐の幅を広げることで、同じ量の水を放流するにしても、乗り越える水の厚さを抑えることができる、つまり水の勢いを弱めることができるのだ。個人的には、ダムっぽさというか、ダム特有のまとまり感が薄れるような気がするのだけど。

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WRITER
萩原 雅紀
萩原 雅紀
ダムライター、ダム写真家。1974年東京生まれ。ダムと名のつくものすべてを対象に、ライフワークとして「ダムめぐり」を続けている。これまで訪れたダムは国内外合わせて500基以上。毎年末に「日本ダムアワード」を主宰。ダムカードの発案にも携わる。著書に『ダム』『ダム2』(メディアファクトリー)、『ダムに行こう!』(学研プラス)等。
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