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萩原雅紀の「ダム」道。【05】重力式ダムだってダイバーシティ

萩原雅紀の「ダム」道。【05】重力式ダムだってダイバーシティ

水位を下げて大雨を待ち受ける

かつて、ダムはそれぞれひとつの役割しか持っていなかった。発電なら発電専用、水道なら上水道専用のダムがその事業者によって造られ、運用されていた。しかし、1940年代頃から、複数の目的を併せ持ったダム、いわゆる多目的ダムが登場する。

その中で、ダムには新たな運用を行う必要性が生まれる。その運用とは、台風の季節はあらかじめ水位を下げておき、大雨が降ると上流から流れてきた大量の水を受け止め、下流に流して安全な分を放流しながら残りを貯めていく。つまり洪水調節である。

それまでの専用ダムは、上流から流れてきた分のすべてを貯めるか、もしくはすべて放流するかの2択だったのが、季節によって水位を上下させたり、水位を上げながら放流したり、といった複雑な運用が必要になったのだ。

当然、クレストゲートだけではゲートの下端より低くは水位を下げられないし、取水設備も洪水調節で使用するには力不足である。そこで登場したのが、クレストゲートより低い位置にも放流設備を持つダムだ。

「クレストゲートを一部切り下げて低い位置から放流できるようにしてみました」

「堤体に穴を開けてその中に水門を埋め込みました」

クレストゲートより低い位置で放流できるようにした最初のダムは、クレスト部を一部切り下げ、そこにやや縦に長いラジアルゲートを設置した。この水門を開けることでクレストゲートの下端よりも水位を下げて大雨を待ち受けることができるし、水位がクレストゲートの下端に届いていない、大雨の初期段階から放流を開始して洪水調節が行えるのだ。

その後、堤体の真ん中へんに放流するための穴を持ち、その中に放流したり止めたりするための水門を設置したダムも登場した。

ここでさらに2系統に分かれたことに気がついただろうか。クレスト部より1段低い位置に水門を設置したダムと、堤体真ん中へんに穴が開けられ、中に水門が埋め込まれたダムだ。

ダム好きはサインコサインタンジェントよりクレストオリフィスコンジットを学ぼう

ちなみに、クレスト部より1段低い位置の水門をオリフィスゲート、低い堤体真ん中へんに開けられた穴の中の水門をコンジットゲートと言う。完璧な見分けは難しいけれど、大まかに言って、下流側から見たときにクレストの比較的すぐ下に設置されているのがオリフィス、真ん中より下の方に穴が空いている場合はコンジット、と判断して良い。

その後、同じように洪水調節を行う多目的ダムでも、オリフィスゲートを持つダム、コンジットゲートを持つダムとそれぞれにバリエーションがある。

「クレストゲートの間にオリフィスゲート2門設置しました」

「クレストゲートの間にコンジットゲート2門設置しました」

また、コンジット部分にはゲートの代わりにバルブが設置されることもある。バルブの利点は、細かい放流量の調節がしやすいのと、放流した時点で水の勢いを抑える、いわゆる減勢ができるということだと思う。

「バルブ2条(バルブは1条、2条と数える)持ってます、たまにしか使いませんけど」

複雑な洪水調節の運用をこなすために、オリフィスゲートやコンジットゲートを装備した多目的ダム。中には、さらに多彩な運用ができるように、オリフィスゲートとコンジットゲートの両方を設置しているダムもある。

「クレスト、オリフィス、コンジットのすべてにゲートを装備してどんな放流もできるぜ」

「クレスト、オリフィスにゲート、コンジットにバルブを装備して微調整も可能!」

さて、ここまでクレストゲートを持つダムの発展系を見てもらってきたけれど、当然と言うか、クレスト部にゲートがない、自然越流式洪水吐のダムでも同じ系譜をたどっている。

「クレストが自然越流式でオリフィスゲート持ってるダムなんてそうないよ」

「クレスト自然越流式でコンジットゲート持ってるダムもそうないよ」

さらに、クレスト部が自然越流式で、オリフィス、コンジットにそれぞれ放流設備を持っているダムも少数ながら存在する。

「めっちゃ出てるの鼻水じゃないよ」

進化?退化?ゲートレス

そして最近のトレンドとしては、ゲートレス化、つまりローラーゲートやラジアルゲートを設置しないダムが多くなってきている。

理由としては、ゲートは運用の幅は広がるもののその重量から開閉に時間がかかるため、流域面積(ダムに流れ込む水が集まってくる面積)が小さいダムでは、大雨が降ってからダムに水が流れ込んでくるまでが早いので、水門の動作が流入量の変化に間に合わない可能性があるのだ。

また、コストダウンの観点から、メンテナンスや人件費がかかる動作部を少なくする、ということで水門を設置しないダムも多い。そういったダムはクレスト部に自然越流式の洪水吐、そしてその下に同じく自然越流式のオリフィスの穴が空いている、という形が多く、比較的似ているダムが多い。

「量産型ダム、とか呼ぶ奴がいるらしいけど正論すぎてぐうの音も出ない」

ところで、水門を使わずどう洪水調節するのかと言うと、オリフィスの穴を下流に流して安全な量の水が出る大きさにしておくのだ。これだけで、大雨が降って貯水池に水が流れ込んでくるとオリフィスの穴から放流が始まり、流入量がさらに多くなれば貯水池の水位が上がってオリフィスの穴から出る量が増え、貯水池の水位がオリフィスの穴の上端を超えたら放流量が最大になる。

「確かに似てるかも知れないが違いを見つけて欲しい」

もし、さらに雨が続き流入量が減らなければ水位も上がって、クレストの下端に到達するまでは正常な洪水調節が行われる。ここでクレストを超えてしまうと、いわゆる異常洪水時防災操作となって放流量が安全な量を超える。でも、その時点でダムの役割は終わりかといえばそうではなく、洪水調節は延長戦に突入。さらに水位が上がって、流入量と放流量が同じ、つまりダムがあってもなくても流量が変わらない、という状態になるまで洪水調節は続くのだ。

「でも自分たちでも見分けつけられる自信ないわー」

雨がピークを超え、流入量も減ってくれば貯水池の水位も徐々に下がり、オリフィスからの放流量も減って、最後は自然に満水位=オリフィスの下端まで戻る、というわけだ。人為的な操作なく洪水調節ができてしまうのだ。

とは言え、たとえばピークが何度もあるような大雨とか、台風が去ってもすぐに次の台風が来る、といった、ややイレギュラーな条件の場合は、人為的に操作できる水門付きのダムの方が融通が効くかも知れない。

よく見てみよう、心の目もフル動員で

と言うわけで、ダムは一見似ているかも知れないけれど、よく見るとひとつひとつ形が違うよ、というお話でした。そしてその形は、それぞれのダムの役割とか、設置された場所の地形とか、川の流量などによって裏付けされたものなのだ。

そう考えると、棲息する地域の地形や気候、天敵などによって進化したり生態を変えたりする、動物や昆虫などにも例えられるのかも知れない。でも僕は詳しくないので誰かやってください。

 
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WRITER
萩原 雅紀
萩原 雅紀
ダムライター、ダム写真家。1974年東京生まれ。ダムと名のつくものすべてを対象に、ライフワークとして「ダムめぐり」を続けている。これまで訪れたダムは国内外合わせて500基以上。毎年末に「日本ダムアワード」を主宰。ダムカードの発案にも携わる。著書に『ダム』『ダム2』(メディアファクトリー)、『ダムに行こう!』(学研プラス)等。
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