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萩原雅紀の「ダム」道。【06】まもなく旬! ハギワラ 春のダム放流まつり

萩原雅紀の「ダム」道。【06】まもなく旬! ハギワラ 春のダム放流まつり

なぜダムは放流するのか?

通常、ダムが放流する理由は4つに分けられると思う。下流の川が枯れないようにするのと、下流に水が必要なときと、貯水池の水位をコントロールしている最中と、発電を行なっているときである。また、イレギュラーな放流として、ダムが完成して試験的に満水まで水を貯めたとき、放流設備の点検のとき、そして下流の川の環境改善のときなどもある。単に水を流すだけもこれだけの理由があるのだ。それぞれどういうことか説明しよう。

下流の水が枯れないように「河川維持放流」

ダムがあると上流から流れてきた水はそこで止まってしまう。必要がなければ放流されることはないし、発電用のダムでは貯水池から取水し、落差を稼ぐために数キロ下流に設置された発電所まで水路トンネルで迂回させて水を送っているところもある。そうするとダムのすぐ下流は水の流れがなくなり、生物や環境、景観に悪影響が出てしまう。

そこで、ダムからは常に一定量の水を「河川維持放流」として流すことになっている。だから、一見放流していないように見えるダムでも、多くは見えづらいところからほんの少し放流している。でもこれを「放流だ!」と言って喜ぶのは下流に住む魚くらいだろう。

よく見るとゲートからではなくその脇から流している維持放流(大森川ダム/高知県)

必要なときに放流する「低水管理」

また、たとえば目的に上水道や農業、工業用水、不特定利水(アルファベットで言えばN、A、W、I)があるダムの下流で、雨が降らず川の水が少なくなり、水量が基準を下回りそうになったとする。そうなると川から水を引いている水路に必要量を取水することができなくなる、もしくは取水されず下流に流れる川の水量が基準を下回る恐れがある。川の水は上流から下流まで多くの人が使っているので、取水した水路の流量だけでなく、取水されずに下流に流れる川の流量も重要なのだ。

川の水がどのくらい流れてどう取水されているか常に監視されている(利根導水総合事業所/埼玉県)

ダムはそんな情報をいちはやく察知し、川が基準となる流量を下回らないように必要量を放流するのだ。これを「低水管理」と言う。もちろんダムから基準点まで流れて行くのに時間がかかるから、それを見越して「将来の流量」を予測したコントロールを行なっている。たとえば利根川は、上流のダムから埼玉県の栗橋にある基準点までおよそ30時間かかるため、1日以上先の流量を予測した運用をしているという。

低水管理でも迫力ある放流が見られるダムもある(滝沢ダム/埼玉県)

貯水池の水位をコントロールするための放流

ダムの貯水池の水位は常に変化している。大雨が降ったり雪解けで大量の水が流れ込んで来れば上がるし、下流で水が必要になれば放流して下がる。また、洪水調節の目的があるダムでは夏から秋は水位を低くして大雨を待ち受けるし、農業用水専用のダムでは春先に満タンにしておいて、徐々に使いながら秋の農作物が収穫される頃に使い切る、というのが基本のパターンだ。

農業用水の供給が終わり、すっかり水が減った貯水池(新宮川ダム/福島県)

ダムにはさまざまな目的や役割があるけれど、放流は、ダムの目的を果たすために設定された貯水池の水位を基準にコントロールされている、とも言える。

たとえば洪水調節では、大雨を待ち受ける「制限水位」に下げ、それをキープするための放流が行われる。流入量が増えて来ると水位は上がり、「常時満水位」を越えて「サーチャージ水位」に達するまで水を貯めることができるけれど、流れ込んで来るすべてを貯めるのではなく、流入量のいちばん多い時間帯に貯水池に貯めることができるように、下流に流しても安全な量は放流を続ける。

ただし、下流が氾濫しそうなときは状況に応じて放流量を減らしたり、ダムによっては流入量が多いときは放流を完全にストップして、すべてを受け止める運用をしているところもある。また、大雨が通り過ぎても、次の雨に備えていち早く「制限水位」に戻すために放流が行なわれる。

洪水調節はふだんの観光放流とは雰囲気がまったく違う(宮ヶ瀬ダム/神奈川県)

洪水調節を細かく説明すると、これまたひとつの濃い記事が書けてしまうので、ひとまずこのへんで。

ここで、前回の「重力式ダムだってダイバーシティ」で書いたように、洪水調節にクレスト部の放流設備を使うダムや、そもそも洪水調節の目的がない発電などの利水専用ダムではクレスト部の放流設備から放流するけれど、オリフィスゲートやコンジットゲートといった洪水調節用の放流設備を装備しているダムでは、基本的にはそちらが優先で使われる。

発電専用ダムはクレストゲートを開けることも少なくない(佐久間ダム/静岡県・愛知県)

もし、ダムの想定を上回り、「サーチャージ水位」に近づいても流入量が減らない場合は「異常洪水時防災操作(いわゆる『ただし書き操作』)」として、クレスト部のゲートを開けたり、自然越流式なら水が越流したりして、堤体の安全を守る「設計洪水位」を越えないように、さらなる放流が行われる。つまり、洪水調節用としてクレスト部以外に放流設備を装備しているダムにとって、クレスト部の放流設備は「最後の手段」なのだ。レアな光景だけど素直に喜んでられない、というかそんな状況のときに放流を見に行くのは危険である。

これは放流と呼んでいいのか「発電放流」

水力発電では、堤体の真下や数キロ下流に発電所を設置して、貯水池から取水した水を送り込み、その落差で水車を回して発電している。貯水池の水を下流に流しているので「放流」ではあるけれど、落差を稼ぎ、勢いを弱めるために水中に放流されていることも多く、ほとんどが見えない部分で行われているので放流しているのかどうかすら分かりづらい。

奥の発電所からものすごい勢いで放流中だけど目立たない(矢木沢ダム/群馬県)

 
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WRITER
萩原 雅紀
萩原 雅紀
ダムライター、ダム写真家。1974年東京生まれ。ダムと名のつくものすべてを対象に、ライフワークとして「ダムめぐり」を続けている。これまで訪れたダムは国内外合わせて500基以上。毎年末に「日本ダムアワード」を主宰。ダムカードの発案にも携わる。著書に『ダム』『ダム2』(メディアファクトリー)、『ダムに行こう!』(学研プラス)等。
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