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萩原雅紀の「ダム」道。【09】打設完了!重力式コンクリートダム「八ッ場ダム」のつくりかた

萩原雅紀の「ダム」道。【09】打設完了!重力式コンクリートダム「八ッ場ダム」のつくりかた

打設完了、いよいよ仕上げ

やがて設計どおりの高さまでコンクリートが打設され、大まかな堤体の建設工事は終了。ちょうど2019年5月末現在の八ッ場ダムの状況がここにある。取材した際には、天端の舗装や欄干の設置といった細かい仕上げ作業、そしてクレストゲートの組み立てと設置、堤体内部の放流設備や各種センサーへの配線、そして発電所の建設工事が行われていた。

これが八ッ場ダムの天端だ

まさにクレストゲートを組み立て中だった

そして、もうひとつ大事な作業がグラウチングだ。グラウチングとは、堤体が接している岩盤を改良するために深い穴を開け、その中にセメントと水を練り合わせたセメントミルクを圧力をかけて流し込むこと。こうすることで岩盤内部の見えない亀裂にセメントミルクが注入されて固まり、岩盤が硬くなると同時に水の通り道を完全になくすのだ。

グラウチングは堤体の底を通っている監査廊で右岸の端から左岸の端まで無数に行われ、さらに両岸もトンネルを掘ってまで数十メートルの幅で行われる。堤体の下の岩盤内に、まるでカーテンのようにセメントの壁が出来上がるため、カーテングラウチングとも呼ばれている。

違うダムだけど監査廊から下に向かってグラウチングの例

いよいよ湛水開始!

堤体や放流設備、周辺設備も完成したら、いよいよ堤体や貯水池の機能や安全を確認する試験湛水の開始である。工事の期間中ずっと現場を増水から守ってくれていた上流仮締切、下流仮締切を壊し、仮排水トンネルの入口を閉め切って、水の流れを堤体の方に戻すのだ。このとき、堤体のもっとも下にある放流設備に水位が差しかかるまで下流への水が止まってしまうため、ポンプなどで水をくみ上げて下流に流すこともある。

外観はほぼ完成に近づいた八ッ場ダム

副ダムも完成している

湛水が始まったらもう見られない堤体の上流側

また、仮排水トンネルはそのままだと水が抜けてしまうため、水位が上がる前に内部で閉塞作業が大急ぎで行われる。とは言っても、堤体下部と同じ強大な水圧がかかるため、かなり頑丈に閉塞しなければならない。

試験湛水が無事に終了すれば管理開始!

試験湛水は半年から1年の時間をかけて徐々に水位を上げてゆき、満水まで貯めて堤体や貯水池斜面が不安定な挙動をしないか確認する。

初めて満水になったら、今度は最低水位まで徐々に水位を下げてゆく。このとき、放流設備の動作確認で初めての放流が行われることもある。

ここまで来ればついにダムの完成。建設事務所から管理事務所に移管され、いよいよ管理開始である。治水や利水で活躍し、ダムが新たな観光地として地元を盛り上げられるように祈りたい。

すべてのカギを握る八ッ場ダム管理事務所の建物

 

大まかに重力式コンクリートダムの造り方を解説したけれど、もちろん現場に張りついていたわけではないので見逃している作業や行程はあると思う。しかし、脆い岩盤を除去し、出てきた固い岩盤は人の手で丁寧に掃除される、コンクリート打設は各セクションがF1のピットストップ並みにタイムを削って行われている、グラウチングで徹底して水の通り道を塞いでいる、試験湛水では下流の水が枯れないように細心の注意が払われている、といった、言われなければ気づかないようなさまざまな配慮がダム建設では行われている、ということを心の片隅に留めて、八ッ場ダムの完成を待ってほしいと思う。

順調にいけば今年の秋から試験湛水を開始、来年春頃に管理開始の可能性が高いという。しかし、せっかく解説したものの、八ッ場ダム以降、重力式コンクリートダムの建設予定はそれほど多くない。この知識が皆さんの役に立つ日は来るのだろうか……。

 
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WRITER
萩原 雅紀
萩原 雅紀
ダムライター、ダム写真家。1974年東京生まれ。ダムと名のつくものすべてを対象に、ライフワークとして「ダムめぐり」を続けている。これまで訪れたダムは国内外合わせて500基以上。毎年末に「日本ダムアワード」を主宰。ダムカードの発案にも携わる。著書に『ダム』『ダム2』(メディアファクトリー)、『ダムに行こう!』(学研プラス)等。
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