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萩原雅紀の「ダム」道。【19】ダムはいかにして大雨洪水と戦っているのか

萩原雅紀の「ダム」道。【19】ダムはいかにして大雨洪水と戦っているのか

大洪水に狙いを定めた一定量放流方式

あらかじめ決められた「下流に放流しても安全な流量」である「計画最大放流量」に到達するまでは、(1)流入量と同じ量になるまで徐々に放流量を増やし、(2)計画最大放流量に達したらその放流量を維持。(3)その後どれだけ流入量が増えても放流量は横ばいのまま、(4)洪水調節容量を使い切る前に流入量がピークを超え、(5)計画最大放流量を下回ったら洪水調節は終了……ではなく、(6)その後もしばらく放流量を多くして、(7)貯水池の水位を「洪水貯留準備水位」に下げ切ったところでようやく洪水調節が終わる。

一定量放流方式の例

この戦略は、下流が整備されていてある程度の流量を流しても被害が発生しない川にあるダムで、大洪水に狙いを定めて防ぐことができる方法と言われている。

ここでは例として、神奈川県の宮ヶ瀬ダムが平成19年の台風9号と一戦を交えたときの記録をグラフ化してみる。

洪水調節中の宮ヶ瀬ダム

国土交通省「水文水質データベース」の「任意期間ダム諸量検索」で表示されたデータより作成。速報値のため実際の数字とは誤差があります

放流量を増やしていくタイミングが流入量より遅れている理由は分からないけれど(洪水貯留準備水位より水位が下がっていたので多少貯まるのを待ったのかも知れない)、流入量がものすごい勢いで増えているにも関わらず放流量が横一線で微動だにしない様子に畏怖を覚えないだろうか。「計画最大放流量毎秒100立方メートル」の「一定量放流方式」で必死に耐える宮ヶ瀬ダムの動きが見事に可視化されていると思う。

そして、一定量放流と言っても実はこの間も水門の開度は一定ではなく、貯水位が変われば水圧が変わり放流量も変わるので、10分ごとに数cm単位の細かい開閉操作が行われているはずである。放流開始から終了まで数えるとほぼまる3日にも及ぶ戦いだ。

とあるダムの操作室。ここで何時間も数字を睨みながらダムの操作をするのだ

ちなみに、どんな方式の洪水調節であれ、いちばん効果を確認しやすいのが、流入量が最大のときに放流量を引いた値だ。

たとえば上の例で宮ヶ瀬ダムの最大流入量は深夜1時から2時頃にかけての毎秒800立方メートル以上で、そのときの放流量は毎秒100立方メートル。つまり毎秒700立方メートルを貯水池に貯めている計算で、ダムがなければ下流に流れる水量は8倍に増えていたことになる。しかも増水するペースもダムが放流量を増やすペースより早い。いかにダムの効果が出ているかが分かるだろう。

流入量が落ち着いてきたあとも放流を続け(後期放流と言います)、貯水池の水位をどんどん下げているところも要注目だ。ふたたび洪水貯留準備水位に水位を下げ切るまで、いわゆる「残務処理」が続くのだ。

 
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WRITER
萩原 雅紀
萩原 雅紀
ダムライター、ダム写真家。1974年東京生まれ。ダムと名のつくものすべてを対象に、ライフワークとして「ダムめぐり」を続けている。これまで訪れたダムは国内外合わせて500基以上。毎年末に「日本ダムアワード」を主宰。ダムカードの発案にも携わる。著書に『ダム』『ダム2』(メディアファクトリー)、『ダムに行こう!』(学研プラス)等。
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