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萩原雅紀の「ダム」道。【19】ダムはいかにして大雨洪水と戦っているのか

萩原雅紀の「ダム」道。【19】ダムはいかにして大雨洪水と戦っているのか

「鍋底」で防備、不定率調節放流方式

一定量放流方式と同じように(1)流入量に合わせて放流量を増やすものの、(2)洪水貯留操作開始流量から流入量のピーク前後を狙って思い切り放流量を減らし、流入の多くを貯水池に貯め込む方式。(3)流入量が減り始めたらふたたび放流量を増やし、(4)貯水池の水位が下がり切ったところで洪水調節終了となる。このハイドログラフの放流量の形から「鍋底カット」、「バケットカット」とも呼ばれている。

不定率調節放流方式の例

この方式は流入量のピーク前後をかなりの割合で(場合によっては全部)貯め込むので、洪水調節として大きな効果が得られるけれど、もちろん洪水調節容量が多く必要で、精度の高い降雨予測なども欠かせないため、戦略を採用できるのは広大な貯水池を持つダムに限られる。ただしそれ以外のダムでも、下流の水位が既にギリギリでこのまま通常通りの操作をすると被害が出そうなときなどに、貯水容量に余裕があれば特例的な操作(特別防災操作)として行われることもある。

そしてそういった場合はそのダムや川のことを知り尽くしている軍師的な職員さんの存在が見え隠れする。とにかく、リアルタイムで数字を追いかけていると、徐々に増えていた放流量が一気にガクンと減る様子が見られるので「うわ、(放流量を)絞った!」「バケットカットだ!!」などと熱くなること請け合いである。操作している人の緊張感はそれどころではないと思うけれど

通常運用でバケットカットを行う真名川ダム。見たい

ここでは例として、2017年の10月下旬という遅い時期に襲来し、関東地方から近畿地方までの広範囲に被害を出した台風21号で、京都府にある淀川水系の日吉ダムが行った洪水調節をグラフ化してみた。これは少し特殊なパターンで、日吉ダムは本来、毎秒150立方メートルの一定量放流で洪水調節を行うところ、淀川流域全体に大雨が降ったため、下流の水位を少しでも下げるべく特別防災操作として不定率調節が行われたのだ。

本来は一定量放流の日吉ダム

国土交通省「水文水質データベース」の「任意期間ダム諸量検索」で表示されたデータより作成。速報値のため実際の数字とは誤差があります

当初は本来の操作通り毎秒150立方メートルで一定量放流を行なっていたが、流入量が急激に増えた夜遅くから放流量をガクッと絞っているのが見てとれる。毎秒600立方メートル以上の最大流入量を記録した夜半すぎには、放流量を毎秒約15立方メートルまで抑え、なんと流入量のほとんどを貯め込んでいる

おかげで貯水量はものすごい勢いで増えたものの、台風は通り過ぎれば雨が止むので流入量の減少も先読みできたのではないだろうか。その後はまる3日以上かけて後期放流を行い、貯水位を下げ切って洪水調節を終えている。最大流入量を記録しているときに放流量を減らしているグラフが見事で、泣ける

 
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WRITER
萩原 雅紀
萩原 雅紀
ダムライター、ダム写真家。1974年東京生まれ。ダムと名のつくものすべてを対象に、ライフワークとして「ダムめぐり」を続けている。これまで訪れたダムは国内外合わせて500基以上。毎年末に「日本ダムアワード」を主宰。ダムカードの発案にも携わる。著書に『ダム』『ダム2』(メディアファクトリー)、『ダムに行こう!』(学研プラス)等。
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