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秋本 佑の「建築を読書する」【01】偶然が生み出した「ほんやのほ」の自由な空間

秋本 佑の「建築を読書する」【01】偶然が生み出した「ほんやのほ」の自由な空間

「偶然の産物」により魅力的な空間に

以前のままの内装が残っていた、ということのほかにも、本屋にとっては必須の本棚(什器)に関する偶然もあった。

それは「ほんやのほ」の名物とも言える「声に出して詠みたい本棚」だ。店内にある本の題名を組み合わせて、「五・七・五」を作る棚で、店のTwitterでもよく紹介されている。これもある意味、偶然の産物だという。

「『声に出して詠みたい本棚』コーナーに使っている棚はもともとは書類棚だったと思うのですが、この棚をどう使おうかと考えているうちに、『ある縛りを設けて本を並べてみよう』と思いついたんです。それで、文庫川柳のような形で試しに本を並べてみたのがはじまりでした」と伊川さんは話す。

天井までの本棚ではないため、低い目線のままでじっくりと本を選びたくなる。右側にあるのが「声に出して詠みたい本棚」

また、これもはじめる前に特に意図していなかったのだけれど、本棚側と受付側で店内の空間が分割されたことで、自然と「時間」まで分かれるようになった、と伊川さんは感じている。本棚側で靴を脱いで上がってもらうことによって(これまた事前の計算ではないそうだが)、じっくり本と向き合う時間を過ごしてもらえるし、かたや受付側では、伊川さんとゆっくり言葉を交わす時間を過ごしてもらえる――。気がつけばそれぞれの空間で、そんな2つの時間が流れるようになっていた。

あらかじめ自分が思い描いていたビジョンを実現するために、いちから設計や内装工事を行う場合が多いが、伊川さんの場合はそうではなく、「その時々の状況に合わせて柔軟に対応していった結果、自分らしいお店ができあがった」と言えそうだ。

偶然はハード面だけではない。会員制としているのもはじめからの想定ではなく、さまざまな要因が重なってのこと。それを、「せっかくなら『会員制の本屋』としてみたらおもしろいのでは」と思いつき、現在のような形になった。

事実、自分の名前が書かれたカード型の会員証を発行してもらうと、なんだか無性に嬉しくなり、定期的にお店を訪れたくなる。これも、伊川さんの発想力の賜物である。

シリーズを集めたコーナーも

発見に満ちた空間のためのBGM

ところで、こちらの店で本と向き合っているとき、ふと耳を澄ませると不思議なBGMが流れていることに気づく。聞けば、音楽家の宮本貴史さんに、この「ほんやのほ」のためにつくってもらった作品だという。言葉で言い表すのは難しいのだが、うねるような旋律の中に、時々、電子音のようなものが交じる。

こちらのスピーカーから流れるBGM

作品づくりに当たっては、宮本さんに実際に足を運んでもらい、店の空間を見てもらったそうだ。そのうえで、「本を読み耽るのではなく、本もしくは本以外の何かを見つけてハッとするような空間にしたい」「いろいろなところに意識が向く状態が維持されるようなBGMにしてほしい」とのイメージを伝えた。結果、リズムも一定ではなく、聴き続けていても決して飽きることのない、唯一無二の作品ができあがったのである。

まずはこの空間を楽しんでほしい

取材の最後に、今後どのようなお店づくりをしていきたいのかを伺った。

取材時の3月中旬時点では、水曜日から土曜日の午後のみの開店だった。これを他の曜日や時間にも営業してみて、いままで来られなかったお客さんにも足を運んでもらうことを考えている、というのがひとつ。

また、店の中に収容できる範囲内の人数でもって、ワークショップや読書会などを開催してみたいのだとか。大人数を集めてどこか別の場所を借りるのも可能だが、「まずはこの空間を楽しみながら、できることがあるのでは」と考えている。

さらには、壁の余白を有効に活用して、「本屋」であることや、その狭さを活かした展示も行ってみたいそうだ。

現在は壁に伊川さんが思いついたものを飾っている

 

伊川さんの本に対する愛情と、いろいろな思いつきを形にする行動力によって生み出された「ほんやのほ」。実は、店がある大伝馬町は、東洲斎写楽や喜多川歌麿を世に送り出した江戸時代の名出版人、蔦屋重三郎(つたや・じゅうざぶろう)が店を構えていた場所でもあり、店のすぐ近くにはその跡地を示すパネルが設置されている。

蔦屋重三郎が書肆を営んだ地で、問屋街に関連するテナントが入居していた物件を活かす形ではじめた店。刻一刻と変化するBGMに合わせるように、棚の中の本たちも移ろいゆき、イベントなどの新たな試みもはじまる。

これまでのものを受け継ぎつつ、それにとらわれずに自由な発想で変わり続けていく――。「ほんやのほ」は、そんなことを感じさせる本屋だった。ぜひ読者のみなさんも実際に足を運んで、さまざまな発見をしていただきたい。

 

 

【店舗情報】

ほんやのほ

〒103-0011 東京都中央区日本橋大伝馬町13-1

Webサイト https://books-ho.tokyo/

Twitter https://twitter.com/ho_bo_po

(東京メトロ日比谷線 小伝馬町駅から徒歩3分/都営新宿線 馬喰横山駅から徒歩4分)

※1階のガラス戸を開け、突き当たりの階段を2階に。営業日や営業時間については、Twitterで確認してからが確実

 

 
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WRITER
秋本 佑
秋本 佑
本(読書)大好きライター。小学生の頃、江戸東京たてもの園で前川國男邸を見て以来の建築好き。建築の専門教育は受けていないものの、「建築ファン」のひとりとして、note(https://note.mu/task_akimoto/m/md67488f9638c)に記事を書くなど。
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