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秋本 佑の「建築を読書する」【04】音楽家夫妻の想いがいまも息づく古民家ブックカフェ・松庵文庫

秋本 佑の「建築を読書する」【04】音楽家夫妻の想いがいまも息づく古民家ブックカフェ・松庵文庫

古い建物を残すことには難しさも伴う

理想的な空間を作り上げた岡﨑さんだが、古い建物で、かつもともとが住宅だったため、例えば水回りの設備が必ずしも店舗に適したものでなく手入れが必要になったり、時には雨漏りもあったりするなど、6年の間には色々な苦労もあったようだ。

そんな手のかかる建物だが、奥さまだけでなく、彼女を慕う生徒さんたちがお店を訪れてくれて、「先生の家を残してくれてありがとうございます」と言ってくれるのを目の当たりにすると、苦労も報われる気がするという。

元寝室は、現在はギャラリーになっている

ただ、そんな岡﨑さんだからこそ、「古い建物を残すこと」を簡単には考えていない。松庵文庫の事例を見た人から、「近くに古い建物があるのだけれど、なんとか残すことはできないか」と相談を受けることもあるのだとか。だが、そもそもオーナーが「残したい」という意識を持っていないと話を進めることすら難しいし、要望を叶えられる業者さんに出会うことも難しい。その意味でも、この建物は幸運に恵まれたと言えるのではないだろうか。

つながりの力で前へ進む

「建築を読書する」連載なので、本のことにも触れておきたい。

お店の中には新刊本が並ぶ棚があるのだが、その選書を手掛けるのは荻窪の「本屋Title」。Titleも古民家をリノベーションした店舗で、松庵文庫と通じるものがある。Title店主の辻山さんは、お店の雰囲気を見て、「このお店に来る人にはこういう本が合うのでは」という視点で選書してくれているそうだ。

Titleによる選書

テーブルの上の本は岡﨑さんの蔵書だという

Titleとの縁もそうだが、6年間お店を続けてきたことで、さまざまな人とのつながりができた。「いろいろなところと繋いでくれる方の力は本当にありがたいです」と岡﨑さんは言う。

「自分ひとりではここから動けないしどうすることもできませんが、彼らの力に引っ張られることで進んでいる、ということを実感する日々です。ここをどうにかしたい、という人たちの存在は心の支えになっており、心から感謝しています」

音楽家ご夫妻の住まいを引き継いだ岡﨑さんだが、「指揮者だったご主人が、どこかで見守ってくれている気がします」と話す。まるでタクトを振るようにお店全体を見て、進むべき道を見失いそうになったときに行く先を示してくれている、と感じることもあるそうだ。奥さまを象徴するものがツツジだとすれば、ご主人を象徴するものは建物そのものなのかもしれない。

 

ご夫妻の暮らした記憶を引き継ぎ、さらに新たな物語を紡いでいく岡﨑さん。建物が深みを増すとともに、「松庵文庫」という空間にもどんどん深みが増していく――そんなことを予感させてくれた。

 

【店舗情報】

松庵文庫

〒167-0054 東京都杉並区松庵 3-12-22

(JR中央・総武線西荻窪駅 徒歩7分)

※営業は、水〜金11:30〜21:00 土日11:30〜18:00 月火定休

Webサイト http://shouanbunko.com/

 
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WRITER
秋本 佑
秋本 佑
本(読書)大好きライター。小学生の頃、江戸東京たてもの園で前川國男邸を見て以来の建築好き。建築の専門教育は受けていないものの、「建築ファン」のひとりとして、note(https://note.mu/task_akimoto/m/md67488f9638c)に記事を書くなど。
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