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ロンロ・ボナペティの「名建築の横顔~人と建築と」【1】kw+hg architectsの武蔵野プレイス

ロンロ・ボナペティの「名建築の横顔~人と建築と」【1】kw+hg architectsの武蔵野プレイス

竣工から7年、ブレずに共有されるミッション

こうした居心地の良さはいかにしてつくられているのか。

館長の斉藤愛嗣さんにお話を聞いた。

赴任して2年目の館長、斎藤さん

「ほかの公共施設と大きく異なるのは、ミッションやコンセプトに反するご意見は取り入れない、というところでしょうか」

武蔵野プレイスの施設としての特徴として、利用者からのクレーム対応をあげる。

「図書館という施設ですから、静けさを求める方も多くいらっしゃいます。また1階でカフェを運営しているので、匂いに対するクレームも多くあります。けれどもこうしたご要望も取り入れることはせず、なぜ対処しないのかをご説明するに留めています」

静かで匂いのない空間を実現するためには、ここでの活動を制限するか、あるいは空間を細かく区切るほかない。しかしそれでは施設のミッションに反するのだという。

「武蔵野プレイスのミッションは”地域のにぎわいを創出すること”。そのために妥協しない。一般的に公共施設はさまざまな方の要望を反映した最大公約数的なものになりがちですが、武蔵野プレイスでは強い意志をもって安易な改善はしないようにしています」

1階のカフェも仕切られることのないひとつながりの空間になっている

もうひとつ重要なのが”ブラウジング(回遊)性”だ。

「ある目的をもってここを訪れた人が、別のことに目が向くように工夫しています。例としては3階で行われている市民活動の活動紹介を、2階のライブラリーコーナーに展開していることなどがあげられます」

図書館、生涯学習、青少年活動、市民活動という4つの機能は、数十個のルームに分割され、地下2階+地上4階の建物全体に再配置される。異なる機能が隣り合うことによって、予定不調和な出会いが生まれるのだ。そのためにはルーム同士を仕切らず、連続させる必要がある。

こうした武蔵野プレイスの空間構成は、「にぎわいの創出」実現を意図して設計されている。それは事業主・建築家・市民の間で、「施設のあり方についての合意形成」を目的とした事前の市民ワークショップにおいて共有された。

随所に設けられた吹き抜け。上階から下階の活動が見える

そうしてつくられた空間が、当初の理念を曲げることなく運用されている。なぜそのような毅然とした対応が可能なのだろうか?

「にぎわいの創出のためには人が滞留する施設にしなければならない、という問題意識が事業構想の段階から強くありました。機能や建築だけでなく、組織の設計もそれに準じています」

市の職員として数々の組織を渡り歩いてきたという斉藤さんだが、武蔵野プレイスの組織は一風変わっている、と話す。

「行政的な縦割りではなく、4つの機能のうち生涯学習、青少年活動、市民活動の3つをひとつの課で担っています。図書館の運営には専門性が必要なため分けていますが、横断的な組織によって柔軟な対応が実現できている面はありますね」

4つの機能が細分化されて空間内に分散配置され、流動性の高い組織によって運営される。建築を構成する機能・空間・組織という要素が、どれも同じ構造をもつという不可分で一体的なあり方が、ブレない運営を可能にしているのだろう。

利用者からの意見とそれに対する返答は館内に貼り出され、市民に共有される

最後に、この建築について聞いてみた。

「好きですよ。特に気に入っているのは3階の会議室です」

利用者の顔が見えるデザインがいいのだとか。

「それから、設計者の比嘉さんから伺って印象に残っているのは、『この施設には廊下がない』ということ。ある場所とある場所をつなぐためだけの空間がない。それは、武蔵野プレイスのあり方をよく表していると思います」

設計者にとっての「当たり前」も、運営者が直接その意図を知れば、より理解が深まることもあるのだ。

竣工から7年経った今でも、比嘉氏は各メディア取材の立会いのため、たびたび訪れるのだという。運営者と設計者が交流する機会が日常的にあることも、組織と建築とのつながりを強固にしている要因のひとつなのかもしれない。

随所に設けられた吹き抜け。上階から下階の活動が見える

建築をより良く使うために

「『建物をつくって終わり』では有効に利用されない」という問題がある時期から取り沙汰されるようになり、箱モノ行政批判にもつながっていく。

それに対応するかたちで、昨今では設計者任せにしない計画が一般的になってきている。設計段階からどのように建物を活用していくのか、事業主や設計者、利用者間で議論し方針を固めていくプレ・デザインという考え方だ。各者の要望を事前に吸い上げ設計に反映させるだけでなく、竣工後も主体的に建物の運営に関わることが期待されている。

しかしながら、そうやって事前に共有された運営のあり方を、どのようにして維持していくのか、という点に対してはまだまだ試行錯誤の段階だ。

武蔵野プレイスで人と建築との幸福な関係性が維持できているのは、施設のあるべき姿が空間デザインだけでなく、組織や機能までトータルにデザインされているからではないだろうか。事実、建築のファンともいえるリピーターが多くいるだけでなく、「この建築で働きたい」と求人に応募してくる人も毎年必ずいるそうだ。

建築に関わる人が変わっても、引き継がれていくであろう強い基盤のようなものが感じられた。

地域を活性化させる公共施設の成功事例として、全国から視察団が訪れるという武蔵野プレイス。表面的な真似事ではない、本質的で有効な取り組みが共有され、広まっていくことを願っている。

 

ロンロ・ボナペティの「名建築の横顔~人と建築と」【公開記事リスト】

【1】kw+hg architectsの武蔵野プレイス

【2】Foreign Office Architectsの横浜港大さん橋国際客船ターミナル

【3】丹下健三のゆかり文化幼稚園

【4】伊東豊雄の笠間の家

【5】西沢大良の日本基督教団 駿府教会

【6】アントニン・レーモンドの聖路加国際病院旧館

【7】長谷川逸子の湘南台文化センター

【8】石山修武の北清掃工場

 
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ロンロ・ ボナペティ
ロンロ・ ボナペティ
「専門知識がなくても楽しめるように建築の魅力を伝える」がモットーの建築ライター・編集者(と名乗る黄色い鉛筆)。大学院の建築コースを修了後、建築系のコンテンツ制作に携わる。国内外の都市や建築を巡って得た気づきをコンテンツプラットフォームのnote(https://note.mu/ronro)で発信中。
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