ロンロ・ボナペティの「名建築の横顔~人と建築と」【5】西沢大良の日本基督教団 駿府教会

「あの名建築」は、いま、どのように使われているのだろうか?
竣工当時高く評価された建築のその後を取材する本シリーズでは、建築と、それに関わる人びととの関係を探っていく。
第5回は、とある教会建築の名作をたずねた。
聖書の言葉に集中するための「完璧な空間」
天井から降り注ぐ幻想的な光。
余計な要素が排除され禁欲的でありながらも、木の温かみのある空間。
壁面と天井に並べられた木材の密度を調整することによってのみ、光をコントロールし、季節や時間帯によって多様な表情が生み出されている。
西沢大良氏設計の「駿府教会」といえば、現代の教会建築の名作として、竣工後11年が経ったいまでもファンの多い建築だ。
「この教会堂はプロテスタントの中でも、特に聖書の言葉に集中することに重きが置かれ、そのために余計な要素は極力排除しデザインされていると思います」
駿府教会が現在地に移って8年目、
「音響には、かなり気を遣っていただいたのだなと感じます。ご高齢の信徒の方も多いため、マイクを使用していますが、子どもたちを対象とした礼拝の際はマイクなしにしており、それでも十分に声が通ります」
光と音の完璧なコントロールが生み出した空間によって、礼拝中は聖なるものに包まれる感覚になるという。
「空から降り注ぐ光の表情は世界中でもここでしか感じられない魅力でしょう」
この空間をひと目体験したいと、訪れる建築関係者は後を絶たない。
壮麗壮大な建築によって人びとを感動させ、求心力の源としてきた教会建築において、これまでとはまったく異なるアプローチで神聖な空間を実現した類稀な作品だ。みずからもキリスト教徒である西沢氏の造詣の深さは、祭壇のデザインにも現れている。
祭壇に段差を付けず床をすべて同じ高さで統一し、信徒が聖なるものに対して「向かい合う」こと以上に、牧師と信徒がともに聖書の言葉に集中する一体感が演出されている。
一般的には長椅子や固定椅子が使われる参列席が、一つひとつ自由に動かせる点も気に入っているそうだ。小さな空間ながら、時と場合に応じたフレキシブルな使い方ができる。
パイプオルガンのコンサートや、結婚式や葬式といった教会に欠かせない行事も、時と場合に応じて椅子の配置の工夫で対応できている。小さなスペースで最大限の活動が可能になるデザインが実現されている。
一見すると宗教色を感じない礼拝堂は、信徒ではない人が教会へ訪れる際の心理的ハードルを抑える効果もありそうだ。

エントランス方向を見る。トップライトからの光が美しい陰影をつくり出している

祭壇正面。余計な要素が排除され、美しい均衡が生まれている

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