建設の匠
Powered by
建設転職ナビ
メニュー
メニュー閉じる
エンタメ

ロンロ・ボナペティの「名建築の横顔~人と建築と」【5】西沢大良の日本基督教団 駿府教会

ロンロ・ボナペティの「名建築の横顔~人と建築と」【5】西沢大良の日本基督教団 駿府教会

与えられた建築を、工夫して使う

会堂内部については、ほぼ竣工当時のまま使われている。細かいことだが興味深いのは、椅子の配置を微妙に変えている点だ。

「少しでも多くの方に座っていただけるように」と中村さんはふたつの工夫を施している。

ひとつ目が、一列に12脚ある椅子を、個数を変えずに配列を変更した点。当時は4つずつ3つのまとまりで置かれており、エントランスホールの建具のラインと揃うように配置されていた。細部まで徹底的にこだわり抜いた、西沢氏の気迫を感じるデザインだ。

しかし隣同士の椅子をぴったり付けた状態は窮屈で、皆隣には座らず椅子ひとつ分の間隔を空けて座っていたという。

「シンメトリーな美しさは保ったまま、より多くの人が座れるように、中央を空けて両側に6つずつの椅子を配置する現在の置き方に変更しました」

デザインに敬意を払いつつ、実用上の課題もクリアした、中村さんのファインプレーだ。

もうひとつ、椅子の配列も一列増やしている。その分のスペースを補うために祭壇を椅子一列分、壁際に寄せた。

「全体のバランスから言えば当初の置き方が良いのかもしれませんが、少しでも座れる人数を増やしたいと思い、変更を加えました」

一列目だけを竣工当時の位置に設置した状態。整然として美しいが、隣との間隔は狭い

「この教会を通じてかけがえのない出合いがたくさんありました。このような素晴らしい教会を設計してくださった西沢さんには感謝しかない。与えられた条件のもと、ひとりでも多くの方に来ていただいて、聖書の言葉に触れるきっかけになるのであれば、そのためにどんなことでもしようと思っています。」

 

「ここに来るまで、こんなに建築について考えることはなかった」という。

西沢氏にとっても、これまでの教会建築の常識を越えたものをつくる挑戦だっただろう。そのような建築に敬意をもって向き合う人がいることで、建築がそれを利用する人びとにとっての財産となっていくのだと思う。

もしも中村さんのような方が将来教会の設計を発注する立場になるようであれば、設計者が気づけないさまざまな知見を与えてくれることだろう。

建築家の挑戦がそれに関わる人を育て、未来につないでいく。そんな循環が生まれる社会になると良いなと思わせてくれる取材となった。

最後に、夜間照明を付けた礼拝堂で、オルガンを弾いてくださった。昼間とはまた異なる表情を見せる空間を満たす響きは、期待を十分に上回る感動的な音色だった。

「礼拝の時間に最大の魅力を発揮するように設計された教会ですから、建築を目的に見に来られる方も、礼拝の時間に合わせて来られるのが一番良いはずです」

建築家の意図したデザインが、実際の利用場面でどのような効果を発揮しているのかを目の当たりにすること。造形上の工夫にのみ目を向けるのではなく、建築がどのような場として活用され、その場所で育まれているものに触れること。

表面的な観察で満足せず、より建築を深く知ろうとする姿勢が、建築の新たな魅力に気づかせてくれるのだと思う。

筆者はこの教会建築を通じてキリスト教の歴史や、日本における伝道活動にも興味が湧いた。優れた建築は、その背景を知りたいという好奇心を広げてくれる力をもっているのだ。

 

もしも今後赴任先が変わった際には、引き継ぎの牧師には「信徒以外の方が建築を目的に来たとしても、なるべく自由に見てもらえる環境を維持してほしい、と伝えたいですね」という中村さん。

駿府教会の信徒にとってだけでなく、静岡の宝となる建築に、育っていってほしい。次に来る時は礼拝に合わせて来ることを胸に誓い、教会を後にした。

照明が点灯した状態の礼拝堂。昼間とは異なる神々しさがある

教会堂 平・断面図

ロンロ・ボナペティの「名建築の横顔~人と建築と」【公開記事リスト】

【1】kw+hg architectsの武蔵野プレイス

【2】Foreign Office Architectsの横浜港大さん橋国際客船ターミナル

【3】丹下健三のゆかり文化幼稚園

【4】伊東豊雄の笠間の家

【5】西沢大良の日本基督教団 駿府教会

【6】アントニン・レーモンドの聖路加国際病院旧館

【7】長谷川逸子の湘南台文化センター

【8】石山修武の北清掃工場

 
1
2
3
WRITER
ロンロ・ ボナペティ
ロンロ・ ボナペティ
「専門知識がなくても楽しめるように建築の魅力を伝える」がモットーの建築ライター・編集者(と名乗る黄色い鉛筆)。大学院の建築コースを修了後、建築系のコンテンツ制作に携わる。国内外の都市や建築を巡って得た気づきをコンテンツプラットフォームのnote(https://note.mu/ronro)で発信中。
建設転職ナビ