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ロンロ・ボナペティの「名建築の横顔~人と建築と」【7】長谷川逸子の湘南台文化センター

ロンロ・ボナペティの「名建築の横顔~人と建築と」【7】長谷川逸子の湘南台文化センター

藤沢市北部の文化の象徴

湘南台文化センターは、市民シアター・こども館・公民館・市民センターの4つの機能をもつ複合施設である。

今回の取材では市民シアター長の角田さんとこども館所長の諏訪間さん、そして市の生涯学習部文化芸術課の井澤さんにお話を伺った。それぞれ長期にわたって仕事あるいはプライベートでの来館も含め、文化センターに関わってきた方々だ。

いずれの施設が開館から30年を経た現在でも、市の文化事業として満足のいく成果を出せているという。

シアターの稼働率は常に80%以上を維持し、こども館の年間来館者数は20万人超、公民館も市全体で13ある施設のなかで最も利用件数が多いそうだ。

その理由として井澤さんは「藤沢市の文化的なシンボルになり得ていると思います。湘南台の地球儀、といえば市民の方は一発でこの施設を思い浮かべることができるのではないでしょうか」と話す。

3人が3人とも「一度見たら忘れない」この建築の特徴的な外観が、市民の心に強い存在感を与えていると感じている。

 

もともとこの土地は、台地に広がる原っぱだった。

そこでは人びとが野球をしたり町内会のお祭りを行うなど、憩いの場として生活のなかに根付いていた。

長谷川氏はこの施設を設計するにあたり、市がコンテンツを提供するだけでなく、市民の自発的な活動が行われる丘をイメージしてデザインを固めていった。

そのため施設の大部分を地下に埋め、地上部分は自由に行き来のできる広場とし、屋上も回遊可能な庭園として開放されている。

人びとの生活動線の一部として開放されることによって、目的がなくとも訪れる場となり、「ここへ来ればなにか面白いことをやっている」と思わせる状況を生み出すことができているという。

地下施設の建設工事には巨額の費用が必要となるが、「バブルの時期だからこそ可能」だった。

バブル期といえば、潤沢な予算を元に建築家が腕を振るい、見た目のインパクトは大きくとも実用に難がある「バブルの遺産」とも揶揄される建築が多くつくられた時代だ。

そうした時代に施設を地下に埋めることに資金を投じる選択は、利用者目線の設計を象徴しているようで興味深い。

丘をイメージして全体がデザインされた。波打つように連なる屋根が木々と連続する

屋上庭園よりサンクンガーデンを見下ろす。細部まで管理が行き届いた植栽は、ほとんどが30年前のものを維持しているという

一方で湘南台文化センターは、長谷川氏の個性を存分に発揮した独創的なデザインも併せもっている。

公共施設でありながらそのようなデザインが可能となったのは、やはり「利用者の方々との根気強い対話あってのものだと思います。自分たちの要望にも耳を傾けて意見を取り入れてくださったからこそ、長谷川さんのデザインを理解し尊重しようという空気が生まれたのではないでしょうか」とのこと。

地下に光を落とすサンクンガーデンの設えなどは、市民の要望が特に反映された部分だ。

利用者との対話によってデザインが骨抜きにされてしまうのではないか、という建築業界の危惧は、市民と誠実に向き合った長谷川氏の尽力によって見事に覆されたといえる。

地上広場を彩るさまざまなフォリー。長谷川氏が長年愛用したパンチングメタルが軽やかな印象を与えている

 
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WRITER
ロンロ・ ボナペティ
ロンロ・ ボナペティ
「専門知識がなくても楽しめるように建築の魅力を伝える」がモットーの建築ライター・編集者(と名乗る黄色い鉛筆)。大学院の建築コースを修了後、建築系のコンテンツ制作に携わる。国内外の都市や建築を巡って得た気づきをコンテンツプラットフォームのnote(https://note.mu/ronro)で発信中。
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