建設の匠
Powered by
建設転職ナビ
メニュー
メニュー閉じる
エンタメ

ロンロ・ボナペティの「名建築の横顔~人と建築と」【7】長谷川逸子の湘南台文化センター

ロンロ・ボナペティの「名建築の横顔~人と建築と」【7】長谷川逸子の湘南台文化センター

ソフト面にも踏み込む設計が生んだ運営の理念

設計時の市民とのディスカッションでは、建築のデザインについてだけでなく、ソフト面すなわち具体的な活動内容についても徹底的に議論された。

特にこども館に対しては子をもつ親から多くの質問が寄せられ、開館から2年分のワークショップ案を長谷川事務所が作成するなど、この種の施設には珍しいほど踏み込んだ提案を建築家が行っている。

現在は施設側で、「なにかしら持ち帰ってもらえる」体験型のワークショップを中心に数多くのイベントを企画運営しており、利用者が文化を受容するに留まらない施設であってほしいという長谷川氏の精神が受け継がれている。

リピーターも多く、大部分はイベント内容を「こども館に来てから知った」という参加者が占めているそうで、施設に対する期待度が窺える。

 

ソフト面での長谷川氏の苦心の跡は地下1階の展示エリアにも伺うことができる。

展示エリアには小さなパヴィリオンが点在し、パヴィリオンごとに展示物が陳列されている。

内部の展示は定期的に入れ替えを行っているが、なんとこのパヴィリオン、30年前にデザインされたものを補修しつつ使用しているのだとか。

30年という年月を経て、大きく時代が移り変わったいまでも人びとに愛される建築を生み出した手腕は、さまざまなスケールで発揮されていた。

こども館の展示エリア

こども館ワークショップスペース

市民シアターの文化的役割

取材にあたってひとつ確かめておきたいことがあった。

市民シアターが藤沢市の文化においてどのような役割を果たしているのか、という点だ。

このシアターのデザインに、長谷川氏は特別な想いを込めていた。

シアターを球形とし、円形舞台を囲うように客席を配置するデザインは、古代ローマの円形劇場を踏襲している。

演劇という文化そのものを生み出した原初的な舞台を採用したのには、藤沢市民が独自の文化を生み出すための装置となってほしいという期待があった。

開館当時は公共のシアターとしては異例の芸術監督制度が設けられ、演出家の太田省吾氏が就任し、円形劇場ならではの公演が数多く開催され注目を集めた。

そうした工夫によって、長谷川氏の意図したようなシアターになりえたのだろうか。

舞台を同心円状に囲む客席。中央の半円部分をせり上げ、後背部の装置を跳ね上げることで正円形のステージにすることが可能

「太田さん以降、芸術監督制度は継続されていません。現在は自主事業をおこなったり、市民団体や各種の商業公演に場所をお貸ししているという状況です」(角田シアター長)

当初の体制がそのまま30年、維持され続けることはなかった。

実際、屋外につくられたローマの劇場は、演劇が日常と地続きにあり、観客が自然と集まって舞台を囲むように計画されていた。

球体に閉ざされた場所で決められた時間に公演が行われ、チケットを購入して観る湘南台のシアターに、古代ローマの劇場と同じ役割を求めるのは難しいだろう。

それでも、長谷川氏の理念はかたちを変えて実現しているようだ。角田シアター長は言う。

「市民シアターは地元のダンスの聖地になっています。幼少期からこの舞台に立つ経験は特別なものがあるのでしょう。ここから羽ばたいていったダンサーの方々は数多くいらっしゃいます」

独自の文化を生み出すといった動きは、行政がお膳立てをして実現するものではないのかもしれない。

けれど市民が文化の担い手として施設を活用する、という文化施設の根底にある目的は達成されているのではないか。

角田シアター長の誇りがにじみ出る強い言葉からは、30年の活動の成果を感じることができた。

施設規模に比して客席数は少ないが、それでも高い稼働率を誇るのは、この場所での公演希望者が多いため

 
1
2
3
4
 
WRITER
ロンロ・ ボナペティ
ロンロ・ ボナペティ
「専門知識がなくても楽しめるように建築の魅力を伝える」がモットーの建築ライター・編集者(と名乗る黄色い鉛筆)。大学院の建築コースを修了後、建築系のコンテンツ制作に携わる。国内外の都市や建築を巡って得た気づきをコンテンツプラットフォームのnote(https://note.mu/ronro)で発信中。
建設転職ナビ