首都高研究家・清水草一の「高速道路」道!【03】やればできる子!首都高“ビリギャル”論

元始、首都高はゾウリムシであった
これまで、「レインボーブリッジからの景観は日本三景」だの、「首都高を世界遺産に」だの書いたので、私のことを首都高の盲目的なマニア、あるいは崇拝者だと思われたことだろう。
確かに私は首都高が大好きだ。愛していると言ってもいい。しかし現在のように、ほぼ手放しで絶賛するようになったのは近年のことで、それまでは、愛するがゆえに、激しい罵詈雑言を浴びせてきた。
拙著『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(2000年、講談社刊 絶版)では、最初の見出しで「ゾウリムシ並みの単純構造」とこき下ろしている。
「1960年代に成り行きで作られた最初の路線は、すべて片側2車線だった。放射線はもちろん都心環状線もすべて片側2車線だ。このあまりにも単純な構造は、いったいどうやって発想されたのだろうか。8本の片側2車線道路がすべて片側2車線の環状線に集まったら、いったいどういうことになるのか、少しも考えた痕跡がない。(中略)これを設計した人間はゾウリムシのような単細胞動物ではないかと思う。」(本文より)
当時の首都高は、まだ中央環状線は東側区間しか開通しておらず、現在に比べれば渋滞量は2倍ほどもあった。それとて、バブル期に比べれば約半分に減少していたのだが、とにかく私は首都高の欠陥構造が許せず、なんとか改善できないものかと素人なりに熟考した。
その結果、
①「都心環状線8の字一方通行化案」
②「中央環状線のボトルネックである小菅-堀切間および板橋-熊野町間の拡幅」
③「湾岸線新木場出口-新木場入口間の片側4車線化」
④「外環道東京区間を環八の地下にルート変更」
⑤「片道4000円(当時)の東京湾アクアラインを1000円に値下げすることで湾岸線や小松川線の渋滞を緩和」
といった具体策を提案したのだった。
このうち、③は2004年に真っ先に実現し、湾岸線西行きの渋滞緩和にそれなりに寄与した。⑤に関しては、現在なんと800円(ETC利用の普通車)! 料金を5分の1にしたことで、交通量は約4.5倍に激増し、逆にアクアラインの渋滞が問題になってしまったが、交通転換によって、湾岸線西行きや小松川線上りの渋滞は大幅に緩和された。
④に関しては、石原都知事の英断により、従来ルートのまま大深度地下トンネル化が決定したことで解決。①は、中央環状線が、計画段階から②の欠陥構造を持つがゆえに行ったケーススタディだったが、その②がなんと2018年2月~3月に実現、拡幅が完成した。

板橋・熊野町ジャンクション間は4車線へと拡張工事が行われた(写真は拡張前のもの)。
書いた本人は、5つの提案のうち、ひとつでも実現するなどカケラも期待していなかったのに、3つも実現してしまったのだ。首都高研究家として、まさかの大勝利である。
2015年には中央環状線が全線開通。現在、首都高の渋滞量は、バブル期の4分の1程度にまで減っている。
これは、数年前にベストセラーになった『学年ビリのギャルが1年で偏差値を40上げて慶應大学に現役合格した話』のようなもので、期待値が低かっただけに、幸福感も大きい。

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