首都高研究家・清水草一の「高速道路」道!【07】下関北九州道路は誰がために建設されるのか

「悪の道路建設」が生み出したもの
最近、道路建設関連で、久しぶりにマスコミを賑わせる事件があった。
山口県下関市と福岡県北九州市を結ぶ「下関北九州道路」を巡って、自民党の塚田一郎・元国土交通副大臣が、山口を地盤とする安倍晋三首相に「忖度し国直轄の調査に引き上げた」と発言したことだ。ちなみに塚田議員の地元は新潟県で、山口県や福岡県とは関係ない。
この発言を受けて、野党をはじめ大マスコミ各社はいっせいに批判を集中させた。塚田議員が非難されるのは当然だが、矛先は下関北九州道路にも及び、「必要ない道路が総理への忖度で造られようとしている」というラベリングが一部で行われた。
政治家が権力を使って道路を建設させるという”悪の構図”に対する批判は、2001年から始まった道路公団民営化議論の際に猛威を振るった。あの時は「道路建設=悪」という十把一絡げ状態で、「この道路は必要です」なんて言おうものなら、建設省(現国交省)の回し者扱い。魔女狩りの対象になってしまうため、そういう声を上げる識者は、私の知る限りひとりもいなかった。

道路建設は悪! だなんて汗水流して働いている建設パーソンに直接言えないでしょ
そんな中私は、2002年に刊行された自著の中で、当時建設中だった37路線の高速道路のうち、25路線について「建設続行」「一部建設続行」と判定した。路線ごとに必要度とコストパフォーマンス指数というものを算出して、建設すべきか否かを独断で判定してみたのだ。
ちなみに、その時の建設優先度ランキング上位は、このようなものだった。
1位 首都高中央環状線
同率1位 外環道東京区間
3位 外環道千葉区間
4位 圏央道 海老名-久喜白岡間
5位 阪神高速大和川線
同率5位 北関東道
7位 第二東名・第二名神(現新東名・新名神)
8位 第二京阪道路
同率8位 舞鶴道
同率8位 東九州道 小倉-宇佐間
当時は、これらすべての路線の建設が「悪」と糾弾されていた。それを「必要です!」と言うのは、大波に立ち向かうみたいな感じだったが、幸いなことに私の影響力など微々たるもの以下だったので、ほぼ誰にも相手にされず、よって吊るし上げを食らうこともなかった。
現在は、当時の風潮などどこ吹く風。かつて魔女狩りを行った大マスコミをはじめとして、そんなことがあったことすら記憶していない。首都高中央環状線や外環道の開通は、拍手喝采をもって迎えられた。

首都高中央環状線の恩恵を受けないと決めているマスコミがいるのなら教えてほしい
今回の忖度道路問題に関しても、当時とはかなり反応が違った。民放テレビ各局は、一応紋切り型の塚田議員&ムダな道路建設批判を行ったが、他の大マスコミはあまりそれに追従せず、冷静な姿勢を見せたのだ。「重要なのは忖度の追及ではなく、その道路が必要か否か」という論調も目立った。その通りだ。

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