足立区には「タコ山」のダイバーシティがある/ワクサカソウヘイの「たてものはいきものだとおもうもの」【15】

呼吸をしているような建物たちを、静かに興奮しながら鑑賞したい。建築物にまつわるアレコレを文筆家・ワクサカソウヘイが五感で味わい、綴ります。
今回の舞台は東京都足立区。”世界のキタノ”を生んだ街に生息する、あるたてものを探しに行きました。(編集部)
タイトルイラスト/死後くん
#15 足立区に「タコ山」のダイバーシティを見た
以前から、ずっと気になっている「たてもの」があった。
「タコ山」だ。
それはつまり「タコの形状をした滑り台」のことである。
公園という場所にはブランコやアスレチックなど、様々な遊具が設置されている。それらは行政の整備課などが施主となって造られた立派な「たてもの」であるわけだが、「タコ山」はその中でも殊に異彩を放っている遊具である。
「公園の中に、大きなタコがいる」
それって、実に不可思議な景色だ。外国の人に「ニッポンの公園にはどのような遊具がありますか?」と尋ねられたとして、「シーソーがあって、鉄棒があって、あとたまにタコがいます」と答えたら、「……パードゥン?」と返されること必至であろう。
私はそんな「タコ山」の奇妙な存在性に、強く心を惹かれてしまう人間である。
聞くところによれば、「タコ山」は職人が鉄骨を組み、そこにモルタルを塗り重ねて、ひとつひとつ手造りで完成させている遊具であるという。つまり、同じ「タコ山」はこの世にひとつとして存在していないということだ。
この世には、どれほどまでに多様な「タコ山」が存在しているのだろうか。ああ、実に気になるではないか。
するとある日、こんな噂が私の耳に飛び込んできた。
「足立区は『タコ山』の密集地帯らしい」
詳しく調べてみて驚いた。なんと足立区内には十一体もの「タコ山」が存在しているのである。これは同一市区町村内の数としては最多であるという。そもそも「タコ山」発祥の地こそが、足立区であるらしい。区の公式ホームページには、どこの公園に「タコ山」が設置されているかを示した「タコさんMAP」なるものまで掲載されているではないか。
これは、放ってはおけない。
さっそく私は、数々の「タコ山」を巡るため、足立区へと赴くことにした。

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