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東京渋谷「前衛トイレ」巡礼/ワクサカソウヘイの「たてものはいきものだとおもうもの」【16】

東京渋谷「前衛トイレ」巡礼/ワクサカソウヘイの「たてものはいきものだとおもうもの」【16】

散歩のスタート地点は恵比寿駅に設定した。

駅から歩いて約5分のところにある児童公園、その片隅に目指すべき最初の公共トイレが現れる。

建築家・槇文彦による『恵比寿東公園トイレ』である。

おお、と思わず声が出る。

なんという清潔感に溢れたトイレだろう。

まずもってフォルムが柔らかく、そして真っ白な壁とガラスによってクリーンな質感が現れている。本当に土足で入っていいのかどうか、ちょっと躊躇するほどである。

駅近くということもあってか、次から次へと利用する人の出入りがある。外壁に併設されているベンチでは、サラリーマンが缶コーヒーを飲みながら休憩をしていた。公園のトイレに時にありがちな湿っぽさや排他的な雰囲気は全然感じられず、全体的に爽やかな「ウェルカムムード」が満ちている。これはかなり快適に利用できそうな公共トイレだ。

中に入ってまた感嘆する。

公共トイレだというのに「庭」があるではないか。

この空間を使って個室を増設することもできたのに、あえてそれをしないで風が通り抜けるようなテラスを出現させるとは。なんというか、「余裕」や「育ちの良さ」を感じさせるデザインである。グラタンが普通に夕食で出てきたり、見たこともない外国の猫を飼っていたり、玄関にラクロスのラケットが立てかけてあったり(※長女が部活動で使用)、そんな家で育たないと形成されないような人格が、このトイレにはあるように思う。上質でいながらも、嫌味がない感じ。私はこういうトイレと、もっとお近づきになりたい。

 

いきなり最初のトイレに惚れ惚れしてしまったわけだが、そこからさらに5分歩いた先にある新設の公共トイレは一転、ちょっと評価するのが難しい物件であった。インテリアデザイナーの片山正通による、『ワンダーウォール』である。

一見すると、トイレなのか、それともなにかのオブジェクトなのか、判別が付かない。腹痛で冷静さを失っている時に、果たしてこれを公共トイレだと認識して駆け込むことができるのか、少々不安である。

入り口から覗くと、先がどうなっているのかわからないデザインになっている。「THE TOKYO TOILET」公式HPによると、この公共トイレはコンクリートでできた壁を15枚、いたずらに組み合わせているという。つまり迷路のような空間を現わしているのだ。

正直、こちらとしては公共トイレに「迷路」の要素は求めてない。

とにかく一秒でも早く個室に飛び込んで安心感を得たい、それが腹部に「サビ」を鳴り響かせた時の心理状態である。「この先にトイレがあるかどうか、それは右折してみないとわからない」みたいな空間演出は、お腹の弱い者にとっては不要でしかない。

ただ、この『ワンダーウォール』の個室は、ゆったり落ち着いた空間となっていた。さすがはインテリアデザイナーの手によるものだ。公共トイレでここまで洗練された個室は、なかなかお目にかかれない。

腹痛に追い込まれた時、この個室に辿り着けたらかなりの多幸感を得ることができると思う。迷路を攻略した、という達成感もわずかではあるが味わえることだろう。

アリかナシか言ったら、トータルでアリの公共トイレである。

 
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WRITER
ワクサカソウヘイ
ワクサカソウヘイ
1983年生まれ。文筆業。ルポ、コラム、コント台本などを執筆。主な著書に『夜の墓場で反省会』『ふざける力』『今日もひとり、ディズニーランドで』など。最新刊は『ヤバイ鳥』(エイ出版社)。
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