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宮田珠己の「迷宮は人生のインフラである」【4】迷路の町 横須賀を歩く

宮田珠己の「迷宮は人生のインフラである」【4】迷路の町 横須賀を歩く

エッセイスト・宮田珠己氏による唯一無二の迷宮的連載。今回は迷路のような港町へと繰り出してみました。(編集部)

迷路の町の楽しみ

今から6年前の冬、大分県と熊本県の県境にある杖立温泉へ行った。旅行記を執筆するための取材だったが、温泉に興味があったからではなく、その温泉町の迷路っぷりに惹かれたからだった。

つげ義春の『貧困旅行記』には、つげが杖立温泉のストリップ小屋の踊り子と寝た話が出てくる。読んだときはその淫靡な空気にのまれ、昭和の面影を残す寂れた温泉町を空想したのだったが、後にその温泉町が迷路状の路地を隠し持っていることを知り、わざわざ出かけて行ったのである。

路線バスで到着したのが夜で、川の両岸から月夜に湯気の立ち昇る眺めが、寂れた温泉町というより、むしろ未来世界のように見えたのを覚えている。

夜が明けてみれば、未来世界は消えてなくなり、そこにはまさしく昭和的な町があって、紛うことなき迷路であった。地元では、川沿いから一歩路地に入れば途端に迷路化するそんな町並みを背戸屋と呼んでいた。

杖立温泉の背戸屋

路地は公道だか私道だかもわからないほど錯綜し、路地というより家と家の隙間としか言いようがない通路が縦横に走って、突然何が飛び出すかわからない期待感と、自分がどこに向かって歩いているのかわからなくなる心地よい幻惑感に襲われた。

ああ、このままどこかに消えてしまいたい。

そんな官能的といってもいい衝動に駆られたものである。

以来、私はそうした迷路的な町を見つけてはリストにしておき、何かのついでがあるときに立ち寄るようになった。

愛知県の日間賀島や、広島県の豊浜町豊島などへ、機会を見つけて出かけていった。印象的だったのは和歌山の雑賀崎で、港に面した斜面を覆い尽くす町の有りようにそれ自体が蠢く生命体のように感じられた。行く先々で土地の養分を吸い上げながら地形に沿って粘菌のように移動していく町。そんなことを妄想して酔いしれた。

雑賀崎の街並み

迷路の町の彷徨は、私を惹きつける。
もちろんそれは、忍者寺や迷宮のような建築物に惹かれることとパラレルで、屋内であろうと屋外であろうと、惹かれる理由は同じである。

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WRITER
宮田 珠己
宮田 珠己
エッセイスト。大阪大学工学部土木工学科卒。一度は就職するものの、独立してフリーランスに。著書に『ニッポン47都道府県正直観光案内』『無脊椎水族館』(ともに本の雑誌社)、『四次元温泉日記』(ちくま文庫)、『東京近郊スペクタクルさんぽ』(新潮社)、『晴れた日は巨大仏を見に』(幻冬舎文庫)、『ジェットコースターにもほどがある』(集英社文庫)ほか多数。2017~18年度朝日新聞書評委員。現在、湘南モノレールWEBサイト「ソラdeブラーン」の編集を担当。
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