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宮田珠己の「迷宮は人生のインフラである」【6】渋谷駅はいい感じの迷路になったか

宮田珠己の「迷宮は人生のインフラである」【6】渋谷駅はいい感じの迷路になったか

迷宮を訪ねて、西へ東へ。エッセイスト・宮田珠己氏は話題のあの駅の“迷宮”にて、いったいなにを想う?(編集部)

「羽化する渋谷」に見る駅模型の迷路感

渋谷駅を模型にして展示している企画展「羽化する渋谷」を見に行った。

行こうと思ったのは、ネットで見た写真がかっこよかったからだ。

見た瞬間、あ、迷路!

と思った。

たしかに、模型を見るまでもなく、渋谷駅周辺の込み入りようは、迷路といっても過言ではない。

私も大阪から出てきてしばらくの間、銀座線の渋谷駅への行き方が覚えられなかった。どこかのビルの上のほうの階にバス乗り場を発見して面食らったこともある。

だいだい地下鉄の駅が、地上の、それも上のほうにあるってどういうことだ。あの地下鉄どっから出てきてるんだ。

「羽化する渋谷」は、昭和女子大の光葉博物館で開催されていた。中に入ると、広い部屋にたくさんの小さな模型と、部屋の中央に大きな模型がふたつ置かれていた。私がネットで見て惹かれたのは、その大きなふたつの模型で、それぞれ2012年と、2020年の渋谷駅を木の板で簡略化して組み上げたものだった。

どちらもいい具合に込み入っている。

見ていると、実際に自分の足でこのなかを歩き回って、どんな感じか味わいたくなる。いや、すでに何度も味わっているはずだが、現実の渋谷駅は模型と違っていい感じだった覚えがない。むしろ人は多いうえに、せせこましい階段や通路ばかりだし、いたるところ床が黒ずんで薄汚れ、悪い印象しかない。迷路好きなのだから好きになってもよさそうなのに、ほとんど足が向かない。

それともうひとつ模型と現実が違うのは、この迷路の半分は駅だということである。駅の構内に入るのは有料であり、いくらうろうろするのが好きだからといって有料の構内に出たり入ったりするのは金の無駄である。したがって、一見充実した迷路に見えても、実際に楽しめるのはこの半分程度なのだ。迷路歩きを実践する者としては無料ゾーンだけで作った模型が見てみたかった。せめて色分けしてくれていればと思ったのだが、そういうつもりで作ってるわけではないだろうから、そこは我慢する。

「羽化する渋谷」は、タイトルからもわかるように渋谷の変化を見せるもので、大きな模型が2つ対比されているのは、この8年で渋谷駅が大きく変わることを示すためだ。

詳細はいちいち書かないが、いろいろな場所が一斉に変わるらしい。東急渋谷駅はすでに地下深くに移動済みだし、これから銀座線の渋谷駅も横にずれ、埼京線のホームも場所が移動するようだ。さらに川まで動かしたというから大掛かりである。

そしてこの川の移動が、渋谷駅再開発の大きな眼目であると言われている。

模型でいうと、この部分である。

この中央部を横断するやや色味の濃い曲がった板が渋谷川で、渋谷の駅はこの川の上と下を挟むように造られている。この川が邪魔して、これまで地下の連絡がややこしくなっていたらしい。

そこでこの川の位置を少し手前にずらして、地下の導線を単純化した結果がこの2020年の模型である。

これまでジグザグに折り返していた階段が、一直線のエスカレーターになり、なおかつ東口広場に通じる幅広い階段ができたことで駅地下の東西の行き来が簡単になったようだ。

東口広場の幅広階段とその上を流れる川

模型を見れば、なるほどそうかもなあ、と思う。思うものの、実感としてはよくわからない。ジグザグに折り返していた階段がどんなところだったか思い浮かばないし、そもそも渋谷に地下街があったことすら知らなかった。

地下街あったっけ?

そんなわけで現場に行って検証してみることにする。渋谷地下街とはいったいどんな感じの場所なのか、そして渋谷駅がいい感じの迷路になったか確かめてこようと思う。

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WRITER
宮田 珠己
宮田 珠己
エッセイスト。大阪大学工学部土木工学科卒。一度は就職するものの、独立してフリーランスに。著書に『ニッポン47都道府県正直観光案内』『無脊椎水族館』(ともに本の雑誌社)、『四次元温泉日記』(ちくま文庫)、『東京近郊スペクタクルさんぽ』(新潮社)、『晴れた日は巨大仏を見に』(幻冬舎文庫)、『ジェットコースターにもほどがある』(集英社文庫)ほか多数。2017~18年度朝日新聞書評委員。現在、湘南モノレールWEBサイト「ソラdeブラーン」の編集を担当。
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