宮田珠己の「迷宮は人生のインフラである」【7】飛騨金山で恍惚の「筋骨めぐり」

土木工学科出身だけれど変なカタチの海の生きものやジェットコースター、巨大仏、ベトナムの盆栽、石が大好きなエッセイスト・宮田珠己さん。その好奇心の幅たるや……。もちろん迷路も好きで、今回は岐阜にある山間のまちまで行っちゃったみたいです。(編集部)
迷路を求めて飛騨金山へ
今さら言うまでもないと思うが、どこかに迷路状の町があると聞けば、じっとしていられない。横須賀の章でも触れたが、熊本県と大分県に跨る杖立温泉や、愛知県の日間賀島、広島県の豊浜町豊島、和歌山の雑賀崎など、機会を見つけてはあちこち出かけてきた。
迷路状になっている町は全国各地に存在する。
試しに「迷路 路地」などのキーワードで検索をかけてみると、すぐに「迷路のまち」を自称する香川県小豆島の土庄町本町が出てくるし、その他尾道や杖立温泉、雑賀崎などなど、キーワードを工夫しながら検索を繰り返していけば、次々とそれらしい町が出てきて、すべてを把握するのが難しいぐらいだ。どの町も行ってみたいと思いながらなかなか実現できないでいるが、そのなかにとくに気になって注目している町があった。
岐阜県下呂市の飛騨街道金山宿。
金山宿は、岐阜県を縦断する飛騨街道の宿場町で、天領、尾張藩、苗木藩、郡上藩の4つの藩境に位置していたため交通の要衝として栄えた。街道沿いには、細い生活道路が網目のようにはりめぐらされ、地元ではこれを「筋骨」と呼んでいるようだ。町を人体に見立て、生活道路を筋や骨に例えているのである。そしてこの「筋骨」がなかなかの迷路らしい。
迷路状の路地に名前をつけるのは、杖立温泉の「背戸屋」と同じである。「背戸屋」は鑑賞に値するいい迷路だった。道がいい具合に錯綜しているだけでなく、くたびれた生活感と、歴史の持つ暗さやもの哀しさのようなものが路地の隅々に滲んでいた。そうした味があるからこそ名前をつけたくなったのだろう。そうしてみると「筋骨」も期待できるのではないか。
ただ「背戸屋」は背中の戸、つまり裏口のイメージが浮かんで迷路に通ずるものがあるが、「筋骨」という名前から迷路を連想するのは難しい。
いったいどんな町なのだろうか。
ずっと指をくわえて見ているわけにもいかない。迷路への禁断症状が出る前に行ってみようと思う。
金山町のサイトによれば、ガイドツアーがあるようだ。私は、2時間かけて案内してくれるという一番豪勢なツアーに申し込んだ。

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