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宮田珠己の「迷宮は人生のインフラである」【7】飛騨金山で恍惚の「筋骨めぐり」

宮田珠己の「迷宮は人生のインフラである」【7】飛騨金山で恍惚の「筋骨めぐり」

湧き水と銭湯

岡戸さんはこの「筋骨」には入らず、少し先の民家のところで曲がってずんずん歩いていく。どう見ても個人宅の真ん前である。

どう見ても個人宅の前

「これも『筋骨』ですか?」

「そうです」

んんん、ツアーに申し込んでおいてよかった。

もしひとりで来たら、勝手に通るのは憚られるような道である。 やがて用水路に出ると、小さな橋が架かっていた。

「さっきの『筋骨』を抜けると、ここへ出るわけね」と岡戸さん。

用水路に架かる小さな橋

原っぱの先の家の横に狭い隙間が見える。あそこのことだろう。それも面白いが、原っぱにもグッときた。いかにも昭和時代を彷彿させる空き地ではないか。

橋はもうひとつあり、それも「筋骨」だと教えられる。まさに縦横に「筋骨」が走っている。

これも「筋骨」

その先がどうなっているか渡ってみたかったが、岡戸さんはそちらへは向かわず、さらにずんずん歩いていく。するとそこに、屋根を懸けられたちいさな水場があった。共同の湧き水だそうだ。

「ここには4つの池がありますが、最初の1号池が飲み水。隣の2号池で野菜を冷やし、こっちの大きな3号池は食器洗い場で、一番手前の4号池は洗濯用です」

壁沿いの小さな一画の右が1号池、左が2号池。中央が3号池で一番下流にあたる手前が4号池

柄杓があったので1号池の水をすくって飲んでみた。柔らかい水だ。

「冬場の今はちょっと生ぬるいですが、夏は冷たくておいしいですよ」

湧き水は迷路の町によく似合う。路地裏にこういう場所があるとホッとすると同時に、道も覚えやすくなる。一石二鳥だ。

湧き水横の階段をあがると飛騨街道だった。

湧き水を裏手に控える木造3階建ての建物は、その名もずばり「清水楼(せいすいろう)」。

お城造りといって通し柱がない独特の工法で造られているのだそう。通し柱がなくて3階建てで大丈夫なのだろうか。なんとなくダルマ落としを連想する。

お城造りの「清水楼」

飛騨街道に沿って歩きだすと両側に古そうな建物がちらほら並び、その隙間にときどき「筋骨」が通っていた。

全部入ってみたいが数が多くてきりがない。惜しみながら、岡戸さんに導かれるまま通り過ぎる。

しばらく行ったところで、少し奥まったところに古い建物があり、かつての銭湯だと教えられた。よく見れば扉の上にたしかに、男、女、と描いてある。

銭湯

中をのぞくと、タイルがきれいに残っていた。奥に狭い浴槽がある。この浴槽が少し深くなっていて、座るには深く立つには浅い。そのため、肩までつかろうと思うと中腰になる必要があった。中腰でずっと浸かるのはきつい。これは長風呂を防ぐためらしい。狭い浴槽だからこその工夫だ。

銭湯内部

更衣室の壁には当時の張り紙が残っていて、カレンダーや指名手配のポスターなどに混じって、昭和59年に料金が大人100円に改定された旨のお知らせが貼ってあった。

この銭湯脇からも「筋骨」が通じている。表通りを通らずに銭湯に通えるように考えられていたのだ。軒と軒の間を歩いていくと、上に建物がめちゃくちゃに被さっていて、どこからがどっちの建物なのかもよくわからない。路地だけでなく、建物内も迷路になっていそうだ。

建物もどうなっているのか謎

この構造を解明するだけでも1日楽しめそうな気がするが、「筋骨」はこのあたりから怒涛の展開を見せていく。

 
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WRITER
宮田 珠己
宮田 珠己
エッセイスト。大阪大学工学部土木工学科卒。一度は就職するものの、独立してフリーランスに。著書に『ニッポン47都道府県正直観光案内』『無脊椎水族館』(ともに本の雑誌社)、『四次元温泉日記』(ちくま文庫)、『東京近郊スペクタクルさんぽ』(新潮社)、『晴れた日は巨大仏を見に』(幻冬舎文庫)、『ジェットコースターにもほどがある』(集英社文庫)ほか多数。2017~18年度朝日新聞書評委員。現在、湘南モノレールWEBサイト「ソラdeブラーン」の編集を担当。
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