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のんびりできる迷宮、小豆島「迷路のまち」/宮田珠己の「迷宮は人生のインフラである」【12】

のんびりできる迷宮、小豆島「迷路のまち」/宮田珠己の「迷宮は人生のインフラである」【12】

コロナにも負けず、宮田珠己さんが日本の“迷路的なもの”をめぐる冒険。ついに念願かなって、迷路として名高い”あの島”に向かったそうで……。(編集部)

小豆島土庄町はどのぐらい迷路だったか

瀬戸内海に浮かぶ小豆島に「迷路のまち」がある。

そのことは、迷路と町、路地などのキーワードで検索すればすぐに出てくるので知っていた。一度行きたいと思いながらなかなか機会に恵まれなかったのだが、このたび関西に用事ができたついでに足をのばして散策してくることができた。そのときの話をしてみたい。

土庄町にある「迷路のまち」を自称するゾーンは、厳密に言えば、小豆島ではなく小豆島に隣接する前島にある。小豆島と前島は地図上でもほぼ一体化しているため、ふたつ合わせて小豆島と認識されることが多いようだが、実際にはこのふたつの島は世界一狭い海峡として知られる土渕海峡で隔てられている。

土渕海峡は狭いところで幅10メートル程度しかないそうだ。見た目は海というより用水路のようである。いくつもの橋がかかっていて往来自由なので、興味がない人はそこに水面があったことさえ忘れてしまいそう。

夜の土渕海峡

「迷路のまち」はまさにその土渕海峡の前島側にあった。

迷路とされているゾーンはそれほど広くはなく、長さにして500メートル強、幅は250メートルぐらいの範囲に収まっている。

地図で見る限りでは、さほど道が錯綜しているようには見えず、これまでに訪ねた横須賀や雑賀崎と比べて、迷路度合いは低い感じがする。

当日、現地のガイドを頼むこともできたのだけれど、新型コロナの感染拡大時に東京からやってきている身としては気が引けた。体調もよく何の自覚症状もないとはいえ、知らずに感染していないとも限らない。なのでひとりで散策することにした。

迷うには予備知識もないほうがいい。ゾーンの中央、土庄本町のバス停付近からいきなり歩きはじめた。

幹線道路である土庄福田線(県道26号線)沿いに妖怪美術館のショップを見つけ、そこで「迷路のまちMAP」をもらう。「迷路のまちの本屋さん」が企画・発行した見どころなどを盛り込んだイラストMAPである。

妖怪美術館とは、迷路のまち内に点在する妖怪アートの美術館で、妖怪画家の柳生忠平氏が館長を勤めているとのこと。小豆島は妖怪で有名な島なのだろうか。そのあたりはよく知らないが、こうした施設が紛れ込んでいるところに、この迷路の魅力をさらに増幅させていこうという意気込みが感じられた。

MAPを見ても、迷路ゾーンはそれほど広くないようだったが、さっそく気になる表記を見つけた。《このカーブミラーの道に入ると、方向感覚が分からなくなるめいろーど》と書いてある。

すぐそばなので行ってみる。

パッと見たところ、それほど幻惑される感じはしないが、路地に入ってすぐにいい感じの分かれ道があって、歩くほどにだんだんと迷宮感が増していった。

たしかに迷路である。

平坦な土地なのに、なぜこんなに路地が折れ曲がっているのかわからない。

この先には「咳をしても一人」で有名な自由律俳句の俳人・尾崎放哉の記念館があるというのも面白い。放哉はかつてこのあたりに住んでいたらしい。迷路のような路地をどう感じていたか知らないが、俳句と迷路には通じるものがある気がする。それは何かと問われるとうまい言葉が浮かばないけれども、強いて言うならその場所その場所の情感とでもいうような何かだろうか。迷路の味わいはその場所の持つ力に依る部分が大きいのである。

町の見どころは尾崎放哉記念館だけではない。小豆島の巡礼札所でもある西光寺も路地のなかに隠れるようにしてあり、家々の屋根越しの赤い五重塔が見え隠れしていた。

これがいいアクセントになっていて、町に不思議な安心感をもたらしているように思えた。

ちなみに、さきほど妖怪美術館のショップでMAPをもらった際、店員さんが教えてくれたのだが、迷路のまちには三叉路が60ヶ所以上もあるそうだ。

たしかにいい感じの三叉路がいくつかあった。エッジの切れた建物と、この先には何があるのだろうという空想を掻きたてるような三叉路は、いい迷路の必要条件とも言える。

そして私がなるほどと膝を打ったのは、そうやって三叉路の数をまるで迷路の錯綜具合を示す指標のように使っていることだ。

私は、迷路がどのぐらい本格的で個性的で魅惑的であるかを、どうすれば客観的に評価できるか、そのアイデアが浮かばないで困っていたのだが、三叉路や五叉路のような奇数、もしくは六叉路以上に多数分岐する辻をいくつ含んでいるかで、定数的に評価することが可能になるのかもしれない。

誰が数えてみようと思ったのかしらないが、なかなかのアイデアだと思ったのである。

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WRITER
宮田 珠己
宮田 珠己
エッセイスト。大阪大学工学部土木工学科卒。一度は就職するものの、独立してフリーランスに。著書に『ニッポン47都道府県正直観光案内』『無脊椎水族館』(ともに本の雑誌社)、『四次元温泉日記』(ちくま文庫)、『東京近郊スペクタクルさんぽ』(新潮社)、『晴れた日は巨大仏を見に』(幻冬舎文庫)、『ジェットコースターにもほどがある』(集英社文庫)ほか多数。2017~18年度朝日新聞書評委員。現在、湘南モノレールWEBサイト「ソラdeブラーン」の編集を担当。
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