100年前に起った建築イノベーター「分離派建築会」展に向って発て!

時が経つにつれて…
分離派建築会は突然、田園へとベクトルを向ける。なぜ田園。ビートルズがインドへ行ったようなものか。山本鼎(かなえ)が同郷の瀧澤眞弓に設計を依頼したことから、「田園的なもの」を建築に取り入れたのだとか。高校日本史で知ったなぁ山本鼎の農民芸術運動。大人になって知った「明るい農村」……は焼酎でしたね失礼しました。

竣工から2年で焼失してしまった堀口捨己設計の紫烟荘(1928年、『紫烟荘図集』(洪洋社)所収、東京都市大学図書館)
1928年の第7回を最後に、分離派建築会は展覧会をひらかなくなった。「起つ」と宣言したからには「座る」とでも宣言したのかといえばそうではなく、自然消滅だったらしい。かと思えば4年後に一冊の本を出し、「茶室」や「パルテノン」だの「映画館」など見事にバラバラのテーマで寄稿している。どんだけフリーダムなんですかあなた方……。
ロックバンドは「音楽性の違い」でなにかと分離や解散するが、分離派建築会はそれらとケタが違う。もともと一人一様式、つまり”派”と言いながら最初から多様性に富んだユニットなのだ。
そう考えれば、個性的な彼らが8年間だけまとまったこの会は奇跡のようなものだし、その活動をまとめた(名門メディア『美術手帖』の記事によれば調査・研究に8年かかったらしい)この展覧会もまた奇跡。スペイン風邪……じゃなくて新型コロナにも負けずに開催してくれてよかった。天晴れ。

白木屋百貨店 透視図(石本喜久治、山口文象設計。1928年、提供/石本建築事務所)
ネタバレになるのでこれ以上は書かないが、「考える人」のオーギュスト・ロダンや手塚治虫もフル動員した展示内容は実に充実していた。パナソニック汐留美術館学芸員・大村氏と京都国立近代美術館特別研究員・本橋氏が編んだ「厚い本」こと図録は、読みどころ爆盛でデザインも秀逸。一般書店でもネット書店でも買えないので、これははっきり言って買わねばソンである。

『分離派建築会100年展 建築は芸術か?』(2,500円+税、朝日新聞社)

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