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Dr.八馬のデザイン・コンシャスなドボクたち【2】ダサカッコよすぎる!ダッチデザイン建築&土木

Dr.八馬のデザイン・コンシャスなドボクたち【2】ダサカッコよすぎる!ダッチデザイン建築&土木

大好評の千葉工業大学教授・八馬 智センセイによる「Dr.八馬のデザイン・コンシャスなドボクたち」(『DDD』って呼んでね)。連載第2回はオランダ特集です。八馬センセイも超オススメの国、オランダの建築や土木の魅力とは――?

(以下写真は八馬センセイ撮影) 

「オランダつくった」んはオラんだ

――こんにちは。きょうはオランダ特集ということで。ええと、八馬センセイはオランダに1年間留学していたんですよね。

八馬 ええ。ぼくなりの結論として、オランダはかなりドボクマインドにあふれた国だと思う。それは「干拓している国」だからなんです。

取材は5月に実施。当然zoomです

――「干拓している」から?

八馬 そう。居住にも耕作にも適していない低い泥炭地を、長い時間をかけて改良しながら、国を形成してきたのがオランダという国。ぼくのオランダに対するイメージなんですけれど、めちゃくちゃ合理主義精神が育まれていると思うんです。なにに合理的なのか、それは「社会の維持、存続」に対して。だから現代においても、「この国のカタチを維持していくには、どうしたらいいのか」を常に考えていると思う。たとえば大麻が合法であったり、尊厳死や売春がOKだったり……。

――ふむふむ、なるほど。調べてみたら、2016年に在宅勤務権(労働者が自宅を含む好きな場所で働ける権利を認める法律)が施行されている国なんですね。先見の明ありすぎ。

八馬 オランダはかつて「オランダ病」と呼ばれた経済危機があって、一度、国が傾きかけたんですよ。それを解消するために「みんな、給料は減るけれども、労働時間を少なくして、とにかくみんなで働ける状況をつくっておこうね」と社会的合意を得て、ワークシェアリングに取り組んできた国でもあります。それって、なかなかすさまじいことだと思うんですよ。いまの日本だと「オレがオレが」で成立しないですよね、

――ですね。

八馬 欧州人である彼らはたしかに個人主義的ですが、「社会があるから、自分(個人)がある」という関係性が根底にある。それはみんなで住めない土地を住める土地に改良してきた社会だから。必死になって国土をつくってきた人たちだから、「国を維持する」ことはめちゃくちゃ重要な命題じゃないかと感じます。

――それが風景にも現れている。

キンデルダイクの風車群

八馬 そう。ロッテルダム近くには「キンデルダイクの風車群」が残っていて世界遺産になっていますが、おそらく昔はこんな風景が延々と続いていた。風車はメルヘンっぽいイメージで語られることが多いんですけれど、要は低湿地の水をポンプアップして海に排水するための連続的な排水システム。そのエネルギーは無尽蔵に吹き荒れる風です。山がまったくない土地ゆえ、風はめちゃくちゃ吹く。その風を得て、風車を回して水を段々状にポンプアップして排水している――そこがオランダについて語る上で、まずおさえておくべき重要なポイントだと思いますね。

オランダといえばチューリップ

――素朴な疑問なんですが、干拓事業は別にオランダに限った話じゃないですよね。オランダがこれほど特殊な風土を醸成したのは、なにか理由があるんですか。

八馬 オランダ国土の面積自体は九州と同じぐらいで、九州と同じぐらいの人口です。だからだいたい九州スケールで考えていけばいいと思うんですけれど、九州は山が多いですよね。でもオランダがそれと圧倒的に違うのは、国土の4分の1が海抜ゼロメートル地帯。つまり佐賀の平野が国土全体だと思ってもらえれば。

――つまり……。

八馬 国土がほとんど江東5区(編集部注:東京東部低地帯に位置する墨田区・江東区・足立区・葛飾区・江戸川区のこと)。秋田の八郎潟にも似ているかな。八郎潟はオランダ人が設計指導してますからね。

――そう言われるととても分かりやすい(笑)。

八馬 以前に仕事で佐賀に行った時に「佐賀ってすごくオランダっぽい」と思ったと同時に、「オランダは全部、こんな感じだ」と。ゾッとしました。佐賀の土木も江戸時代に治水・利水面で独特の発達をしているんです。それでも、ほかの国や地域の干拓は、特定のエリア限定。オランダの場合は国土全体。このスケールの違いは大きいと思います。

山も坂もない「手がかりのない風景」

――だからオランダ人はキリスト教国であっても、「オランダはオランダ人がつくった」と自負するんですね。「イエナプラン」という自律と共生を掲げた教育が普及しているのも頷けますね。

八馬 そうですね。自主自律を成り立たせるための寛容な社会が受け皿として存在する。彼らは個人をものすごく尊重しているので。そのために社会システムの開発に力を入れていて、世界的に見ても「なにその施策⁉」みたいな先進的な施策をいきなりはじめちゃう。

――「自粛警察」とか出てこなさそう。

八馬 おそらく出てこないと思う。ぼくも住んでみてはじめて「成熟した社会って、こういうことか」と解けてきた感じですね。

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WRITER
八馬智
八馬智
1969年千葉県生まれ。千葉工業大学創造工学部デザイン科学科教授。専門は景観デザインや産業観光など。千葉大学にて工業デザインを学ぶ過程で土木構造物の魅力に目覚め、札幌の建設コンサルタントに入社。設計業務を通じて土木業界にデザインの価値を埋め込もうと奮闘したものの、2004年に千葉大学に戻りデザインの教育研究に方向転換した。その後、社会や地域の日常を寡黙に支えている「ドボク」への愛をいっそうこじらせた。2012年に千葉工業大学に移り、現在は本職の傍らで都市鑑賞者として活動しながら、さまざまな形で土木のプロモーションを行っている。著書に『ヨーロッパのドボクを見に行こう』(自由国民社、2015)がある。
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