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Dr.八馬のデザイン・コンシャスなドボクたち【3】ドボクの美は「繰り返し」に思いがけず宿る

Dr.八馬のデザイン・コンシャスなドボクたち【3】ドボクの美は「繰り返し」に思いがけず宿る

千葉工業大学教授・八馬 智センセイによる「Dr.八馬のデザイン・コンシャスなドボクたち」。連載第3回です。ごぶさたしてしまって申し訳ありません(遅れはすべて編集担当者の怠慢によるものです……)。

テーマは「美」について。土木学会デザイン賞選考委員でもある八馬センセイ、ドボクならではの「美」とはいったい?

(以下クレジットのない写真は八馬センセイ撮影)

 

あえて問おう、「美とはなんぞや?」

――さて、今回のテーマは「美」でございます。

八馬 ……ぼくはね、しばらく前まで「美しい〇〇」的な表現をいっさい使わなかったんです。「美しい」という言葉を使うのを避けてきた。「自分なんかが畏れおおくて使えない」と。

――「美しい」と言えない……? そりゃあどういうことです?

八馬 景観や橋梁など公共物デザインの仕事をしているとき、ずっと考えていたんです。「税金を使ってすごく耐用年数が長いものを造っていく責任を、デザインする側はどうやって取っていけばいいんだろうか?」と。それを担保するものはないのだろうかと。

すると「普遍的な美」を目指すようになる。そこで考えなければいけなくなるのが、「そもそも”美しさ”って、何なんだ?」。すごく悩ましかったし、いまだに分からない。

――なるほど。

八馬 ……だけど最近、そういう頑なな思考がほどけてきて、「まあ、いいんじゃないの」という気持ちにもなってきたんですね。簡単に分かるわけがないんですよね。あまたの哲学の大偉人たちが取り組んできた大問題ですから。

ようやく「美しさ」という言葉をそれほど抵抗なく使えるようになってきた感じなんですよ。けれど、相変わらず無防備に使うことはできない。

――八馬センセイのスタンスはよく分かりました。

八馬 それで美しさなるものについて勉強したら、「美的形式原理」という論考の中に「美しさは、いろいろな要素が複合して成り立っている」という話が出てくるんです。キーワードとして「統一、統調」「調和」「秩序」などが上位にあり、それらによって美しさが成り立ってるそう。

さらに細分化して具体的に考えたとき、「繰り返し」の要素は重要なんじゃないか——と。土木構造物のデザインを考えるとき、「繰り返し」は取り入れやすいな、と思ったんですよ。

だからぼくは、「繰り返し」に対してはわりと執着心をいだきながら観察をしてきました。中には繰り返されることで、意図しないままに美しさを獲得してしまったものもあるんです。

――という前置きを踏まえたうえで、本編に入ります。

 

まずはこちらをご覧ください。長野県の小谷村にある砂防ダムの一部です。

――これ、どこかで見たような……と記憶を遡ってたどりついたのが、京都の化野念仏寺です。

化野念仏寺(写真/Adobe Stock)

――パッと見た感じは同じものの繰り返しなんですけれど、よく見るとそれぞれに違う表情があるように見えますね。

八馬 そう。おっしゃるとおり、連続しているんですが見続けていると実はひとつずつ違うのが見えてくるおもしろさがある。

この砂防ダムは小谷村の緊急災害対策現場にあって、下に土砂がある不安定な状態なんです。

軟弱な地盤の上に普通のコンクリート重力式砂防ダムの堤体をつくろうとすると、地盤が持たず沈下が起こる。地盤沈下による変形を許すために、コンクリートブロックを組み合わせています。一つひとつがゆるく繋がっているから、ちょっとぐらいズレても大丈夫なんです。

――ははぁ、なるほど!

八馬 「こうこうこういう理由でこんな工法を採用している」と聞くと、「ははぁ!すごい!」となりますよね。

その積み上げているだけのプレキャストのコンクリートブロックが、水が通るところは削れていくところに、ぼくは「人間の必死さ」が表れているように映るんです。

――「人間の必死さ」……? なんだか今日のキーワードになりそうですね。

八馬 (ふふふ)

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WRITER
八馬智
八馬智
1969年千葉県生まれ。千葉工業大学創造工学部デザイン科学科教授。専門は景観デザインや産業観光など。千葉大学にて工業デザインを学ぶ過程で土木構造物の魅力に目覚め、札幌の建設コンサルタントに入社。設計業務を通じて土木業界にデザインの価値を埋め込もうと奮闘したものの、2004年に千葉大学に戻りデザインの教育研究に方向転換した。その後、社会や地域の日常を寡黙に支えている「ドボク」への愛をいっそうこじらせた。2012年に千葉工業大学に移り、現在は本職の傍らで都市鑑賞者として活動しながら、さまざまな形で土木のプロモーションを行っている。著書に『ヨーロッパのドボクを見に行こう』(自由国民社、2015)がある。
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