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首都圏外郭放水路“地下神殿”の守り人が「もっと見学に来て」と願うワケ【後編】

首都圏外郭放水路“地下神殿”の守り人が「もっと見学に来て」と願うワケ【後編】

写真/奥村純一 取材協力/国土交通省 江戸川河川事務所

地下神殿はなぜ誕生したのか

そもそもこの施設はなぜ誕生したのか。これだけ大きな施設をつくるには、さぞ江戸川や利根川のような大きな河川の氾濫に備えたものかと思いきや、さもあらず。

地下神殿の守り人、長さんにあらためてインタビューする。

もともと利根川や江戸川と荒川に挟まれたこの地域は、昔から雨が降るたびに浸水被害に悩まされていた。地盤が低く、水が溜まりやすい皿のような地形だったのだ。さらにこのあたりを流れる中川や綾瀬川は、決して大きな川ではないものの、河川の勾配がゆるやかで水が海に向かって流れにくかった。加えて、首都圏に近いがゆえに人口が増えて都市開発が進み、土地自体の水の吸収率も低くなった。

それらが、この流域で浸水被害が頻発した理由である。

話は少しずれるが、実は東京・杉並にも、「神田川・環状七号線地下調節池」という地下施設がある。神田川、善福寺川、妙正寺川などの神田川水系の氾濫対策として、20年の歳月をかけてつくられたものだ。この施設と首都圏外郭放水路との違いは、リアルタイムで排水できること。「洪水調節池と一概に目的を比べるものではないんですが、ここでは『洪水を抜本的に解消しよう』という目的でつくられました」と長さんは話す。

かくして、13年の月日をかけて、世界最大級の地下放水路が誕生した。……最大級というが、他に類似施設はあるのだろうか。

「世界ではあまり例がありません。日本では、大阪で建設中の寝屋川放水路ですね。まだ地下に水を溜めるだけの機能しか有していませんが、完成すればこの施設よりも長くなると聞いております。」

「想定外」の災害が多い昨今だが、いまのキャパシティで大丈夫なのだろうか。

「難しいですね。想定外を想定してつくると,過大な施設になってしまうこともある」と長さんはちょっと眉をひそめた。たしかに、バランスは難しい。

当初、観光化するつもりはなかったらしい。この施設はもしかしたら機能を優先した、もっと無味乾燥な施設だったのかもしれないのだ。しかし、整然と並ぶ柱のフォルムやスポットライトの配置や光の当たり方が、偶然にも神秘的で荘厳な雰囲気を演出した。さらに特別公開でこの施設を見た人たちの大反響が、観光施設化へ大きく舵を切るきっかけとなった。

この荘厳な雰囲気は見学を意識してつくられたものではなかった。

そして近年の外国人観光客の増加や観光立国を目指す政府の方針が後押しした。

「見学会は以前から平日に1日3回、行っていました。それを今年の8月から民間に運営を任せて,1日7回に増やしました。土日も開催しています。もっとオープンにしたんです。政府の方針として、国としても積極的に公共インフラを開放して、魅力をどんどん発掘していこうとなったので,見学会をさらにオープンにしました」

そう、この8月から、首都圏外郭放水路は「日本一のインフラ観光資源」を目指して東武トップツアーズと連携し、民間運営見学システムによる社会実験がはじまった。

公開は1回につき50名で、1日7回、50分の見学ツアーが組まれている。平日だけでなく土日祝日も行われているのがありがたい。さらにこれまで非公開だった第一立抗が見学できるというのだ。また、これまではNGであった調圧水槽に水が溜まっていくレアな状態も見学できるようになったとか(ただし床面までは降りられない)。

これまでの来場者数は累計49万人。8月は夏休みということもあって、1万1,000人が来場した。「期待通りですね」と長さんも微笑む。さらにSNSや海外メディアを見てやってくる外国人観光客も増えてきた。長さんの印象としては、「全体の1割弱」だそうだが、決して便利とはいえない立地にもかかわらず、「ドウシテモミタイ!」と言ってわざわざ来場するのだから感服する。地下神殿の魅力は、きっと万国共通なのだ。

個人的な雑感だが、クリスマスや年越しカウントダウンなどの季節性の高いイベントや、カートレースやドローンレース、プロジェクションマッピングを駆使したイベントがあれば、さらに幅広い層にも受けそうだ。

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「建設の匠」編集部
「建設の匠」編集部
「建設の匠」編集部の中の人。ひとりで取材したり記事を書いたり写真を撮ったりしております。ツイッターは@KensetsuTAKUMI、フェイスブックは@kensetsutakumi2018。
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