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ビジョナリー

気候変動時代到来までにダム技術は伝承できるか。ダム技術センター理事長・川崎正彦氏の危機感

気候変動時代到来までにダム技術は伝承できるか。ダム技術センター理事長・川崎正彦氏の危機感

コンクリート製の巨大な堤体。広く深々と水を湛えた湖。大迫力の放流――。

多くの匠の技によって建造されたダム。そのスケールはいわゆるダムマニアをはじめ多くの人を魅了してきた。

しかしその人知を超えた迫力、または自然環境保護の観点から、ダムに対して否定的な意見があるのもまた事実だ。2019年秋に日本列島を襲った台風19号においても、ダムに対する肯定・否定さまざまな言説がメディアを賑わせた。

気候変動、地方創生、インフラツーリズム――令和のダムを囲むキーワードはさまざまだ。ダムはこれからの世界にどう共生していけばいいのだろうか?

ところが一般財団法人ダム技術センター理事長・川崎正彦氏に話を訊いたら、どうもそんな次元の話ではないらしい。

ダム建設技術の伝承に、危機が迫っているというのだ。

ダムは世につれ世はダムにつれ

旧建設省でダムを担う河川局開発課や各地方整備局を渡り歩いてきた川崎氏。地方自治体の役所や環境省などにも出向したこともある。「ダム技術センター理事長」の堅苦しい肩書きのイメージを裏切る軽妙洒脱な語りで、ダムを取り巻く戦後の時代背景を解説してくれる。

「戦後の復興に合わせて、ダムはまず発電用として、電力の確保が求められました。それから農業の生産量を増やすために農業用水のニーズ、製鉄業など工業用水のニーズが高まってきた。さらに人口が増え、都市に人口が集中するにともない、水道用水を確保し、計画的に給水するために水道が整備されるようになりました」

しかし狭い日本の国土において、ダムサイト(ダム建設用地)は限りがある。そこで発電、そして農業や工業用水などのいわゆる「利水」のニーズを叶えるため「多目的ダム」として新規開発されることに。

そんな状況が戦後から長く続いた。が、しかし。

「技術の進歩で工業用水を回収できるようになって、同じ水を30回も使えるようになった。さらに産業の形態が変わっていき、水を使わない産業が大きなシェアを占めてきた。だから水を使う用途がどんどん少なくなって、工業用水が余るようになったんです」

生産過程で大量の水を必要とする重工業から、純度の高い水を少量だけ用いる精密機械工業へ――。そして、水道用水についても2008年に日本の人口はピークをむかえた。大都市ではまだ人口は増えているが、水需要が伸びなくなった。ご存知のように、トイレやお風呂、洗濯機などは節水機能が整い、ひとり当たりが使う生活水量が減っていったのだ。

時代とともに水のニーズ、取り巻く環境は変わってきたと川崎氏は語る。

「2018年に水道法が改正されました。民営化も話題だけれど、要は水道の目的を変えたんです。水道は基本は市町村単位に委ねられていて、小さい町村の事業所では事務員2、3人で運営しているような小さくて経営基盤の弱いところが多い。だから経営基盤の強化を目的として、事業を合併し大きくして、職員数も確保するなどの方向に変わっていかねばならない。量を確保して給水区域拡大を目的にする水道の時代ではなくなったんです」

そして、今度は気候変動の波がやってきた。記録的な豪雨による河川の氾濫や市街地の冠水など、かつては東南アジアでしか見られなかったような光景が、いまや毎年のように国内で報道されている。

「温暖化が進展すれば、おそらく、いまの新潟や秋田とか、ちょっと寒い地域で現在は稲作の中心となっている土地での米づくりは厳しくなってくる。降雪量が減少し、田植えに必要な雪解け水が不足し、気温が上がって稲作の適地が変化し、将来は北海道あたりが中心になるのではないか」と川崎氏はみる。

地球温暖化によって寒冷な地域が北にスライドしていく。当然、それにともなって農業が変わる。また、温暖化により大雨が多くなる。これは短時間に降る豪雨の代わりに、雨が降らない期間が長くなることを意味している。

「2016年の利根川水系での渇水がそうなんだけど、温暖化が進行すれば山に雪が溜まらない。利根川などでは、冬のあいだに降った雪が解けた水をダムに貯めて、1年間使っているわけですよ。冬に雪が降らなければ、ダムに水が貯まらない。夏場に雨が降らなければ、渇水になってギブアップです」

そしてもうひとつは、と川崎氏。

「……東日本大震災です。あれでエネルギー政策が見直された」

震災後、原発依存低減や化石燃料使用量を減少させ、太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーを積極導入することになった。それで住宅用太陽光発電なども一気に普及した。

しかし太陽光発電は夜間に発電できない。供給電力の変動幅が大きいのも課題である。安定性のある基礎発電としては原子力発電(+揚水発電)の方が上だが、変動が少ないという面では水力発電もそうで、水力発電は短時間のうちに出力を上下できるメリットがあると川崎氏は語る。

ただし農業用の水路等を利用した小水力発電はたくさんできても、新たな大規模水力発電は難しい。

つまり、水道や工業用水、発電等の水利用が大幅に伸びる要素は少なくなっている。そこで川崎氏は「今後も、ダムの需要があるのは治水枠です」と断言した。そう、限りあるダムサイトを活用した既存ダムの再開発だ。

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「建設の匠」編集部
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「建設の匠」編集部の中の人。ひとりで取材したり記事を書いたり写真を撮ったりしております。ツイッターは@KensetsuTAKUMI、フェイスブックは@kensetsutakumi2018。
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