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気候変動時代到来までにダム技術は伝承できるか。ダム技術センター理事長・川崎正彦氏の危機感

気候変動時代到来までにダム技術は伝承できるか。ダム技術センター理事長・川崎正彦氏の危機感

ダム発注側も人材不足の時代へ

「今後、技術の伝承はしんどくなると思います。まだゼネコンにはCMEDが500人いるから、現場でダム工事をおこなう技術者はまだそこまで減っていない。ところが発注側の技術者が減っている」

元官僚の川崎氏ならではの重い発言だ。ダム建設を担当してきた優秀な技術者が大量に定年退職を迎え、ダム事業数の減少から若手技術者がダム技術を習得する現場がなくなっているという事実――。

そもそもダムをつくる際、発注側の努力にはあまり目を向けられない。最初に計画をつくり、地元市町村の了解をもらい、地元に入って交渉しながら用地を譲ってもらう。生活再建のために代替地を造成する。それから付替え道路工事がはじまっていく。道路工事が終わってから、ようやく本体工事がはじまる。ダム本体工事の前にやるべきことはたくさんある。

「発注者目線で言うと、ここで仕事は8割終わっている。技術的におもしろい2割(堤体などの工事)をゼネコンの人たちが受注してやっている」と川崎氏。また、ダム本体工事の設計図や工事の仕様をとりまとめて発注するのも発注側技術者の仕事だが、彼は「発注前の仕様書づくりが一番おもろい」と言い切るタイプの人だ。

発注側のダム技術者を育てるためには、やはりダム現場で自分の手を動かし、経験を積む必要があるという。しかし繰り返すが、国や都道府県の新設ダム事業は数えるほどしかない。

こうして発注側の若手技術者の育成とダム技術の伝承はどんどん難しくなる。そんな状況のなかで今後再開発できる人材を育てていかねばならない――。

ダム管理業務においても同じことが言える。

「ダム管理でもダム建設技術の知識は必要です。管理していれば『漏水が増えたか減ったか』『異常はなぜ起きたのか、堤体に問題があるのか違う原因なのか』を探らないといけないでしょう。ダムを建設する際にこんな技術的な苦労があって、こんなところに気を付けなければあかん……という知識がないと、なかなかやりにくい」

前述のように再開発を迫られるダムで、担当がダム建設を経験していない若手職員だったら……たとえ申し送り事項があっても、途方に暮れてしまうのではないか。

昨年10月に試験湛水をはじめた横瀬川ダム(高知県)は、四国においては約20年ぶりの新規ダム建設だった。そのためダム技術のノウハウ伝承で苦労し、ダム技術センターも支援するなどの対策を講じたそうだ。実際、ダム建設がいったん終わった国土交通省地方整備局が出てきている。今後、各地で再開発がはじまると、同様の問題が表出してくるだろう。

さらに言えば、建設中の安威川ダム(大阪府)と鵜川ダム(新潟県)を最後に、日本のロックフィルダム建設は終わる。技術革新により、築堤材料の合理化が可能なCSGダム(Cemented Sand and Gravel)建設が中心になってきている。

ダム建設の絶対数が少なくなったいま、CSGダム建設を経験していないゼネコンも多い。またICT建機による無人化施工など高い技術力でもって数多く受注できるゼネコンがある一方で、ダム建設入札から手を引かざるを得ないゼネコンもあらわれている。「企業努力の結果」といえばそれまでなのだが……。

 

治水の話に戻そう。川崎氏いわく「治水というものは、水系によってベストなものが違うんですよ」。たとえば利根川と淀川、筑後川の治水対策はまったく別物。その上でダムと河川改修、遊水地や放水路などの組み合わせから「いちばん安くて、効率の上がる治水のかたちを探していく」のだそう。だからよく言われる「ダム建設ありきの治水だ!」ではない。

「まちの直上に広い遊水地があるなら遊水地が担えばいい。放水路が効率よければ、その役割を負えばいい。引堤ができる地域は、それをやればいい。一番いいものを選択すればいいんです。それらで足りるなら、別にダムは要らないですよね」

ちなみに「引堤」とは、川の流下能力を大きくするため、家屋や用地を買収して、川幅を拡大し既設の堤防を堤内地側に移動させることだ。

「ダムなど不要だ、代わりにスーパー堤防を整備せよ」という言説も見られる。しかし治水はダムや遊水地、調節池や放水路、そして堤防などの中から資産や立地条件等を見て総合的・一体的におこなわれるもので、「ダムよりスーパー堤防」という単純な話ではないという。

実際のところ、「改修のために一度引堤(ひきてい)をして家をすべて動かした場所の再引堤はさすがにむずかしい」と川崎氏。そりゃそうだ。これから人口がますます都市部に密集するというのに、住民への説得や補償をおこなっていたら一生終わらない。

仮に昨年越水した多摩川周辺にスーパー堤防を整備しようと、密集した住居をごっそり移すことになる。それが現実的かと聞かれれば、誰もが首を横に振るだろう。なんせ一部に「景観を楽しめない」という理由で堤防さえもなかった地域もあるぐらいなのだから……。

 

首都圏には“地下神殿”と呼ばれる首都圏外郭放水路や神田川・環状七号線地下調節池、いわば地下のダムがある。用地買収の必要がなく、効果も高い。同種の施設は大阪にも建設中だ。ただ、地下の建設にはかなりの時間を要するし、費用も相当なものである。

環境や費用、効果などを鑑みた消極的な理由からも、ダムはコスパがよく比較的建設しやすい、と言える。

それでも、ダムはずっと不遇をかこつ存在だった。

 
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「建設の匠」編集部
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「建設の匠」編集部の中の人。ひとりで取材したり記事を書いたり写真を撮ったりしております。ツイッターは@KensetsuTAKUMI、フェイスブックは@kensetsutakumi2018。
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