「建設業界にこそ“SDGs”を」北海道の工務店・福地建装会長の福地脩悦氏がそう願う理由【後編】

保守的な業界の壁に苦しむ
福地建装会長の福地修悦氏は、せっかく生み出した「ファースの家」の技術を普及するにあたってぶち当たった壁について、こう述懐する。
「建築の、特に断熱専門の大学の先生方からすれば、邪道と捉えられていました。それは国の基準を真っ向から否定しているわけだから。ただ、知見を持った専門家だったら、我々の理屈が分からないはずはないんですよ。実際に北総研(北方建築総合研究所)でも、当時そのような研究を行っていました。いまは偉くなったけれど、当時の若い技術者さんも『社長の言うことも分かるんだけども、それはなかなか公言できないんですよ』と本音を漏らしていました」
断熱に関する基本概念は、いみじくもこれまでの研究結果を基に、マーケットに広がったものだ。自分たちが広めたものを、おいそれと否定するわけにはいかないという事情もあるだろう。
ともあれ、専門家からはなかなか認められない日々が続く。でも、いつかはきっとオセロがひっくり返る日がくると信じていた。それより福地氏が気にしていたのは「家に住む人が快適かどうか」だった。
「『住む人と分かち合う家づくり』を我々の経営理念にしているんですが、住む人とそこに関わってる人たちが、平等に利益を分かち合えなきゃいけないと思っています。そういえば、いつぞやベンチャーキャピタルがやってきて、相当の投資を受けて、さらに上場の話を持ちかけられたんです。一時はその気になったんですが、店頭公開した段階で、会社は株主の会社になっちゃいますよね。『経営理念を住む人と分かち合えないよな』と思って、止めました。それで一気に会社は債務超過になりましたけれどね(笑)。やっぱりマネーゲームなんかしちゃいけない」。そう自嘲しながらも、福地氏は悔いなどなさげな笑顔を見せた。
2000年に研究開発室・特許管理部門を併設し、特許登録数は10件を超えた。継続的なイノベーションを行っていくうちに、時代は変わっていった。2008年、省エネルギー性能の優れた住宅に与えられる「ハウス・オブ・ザ・イヤー・イン・エレクトリック」(現在の ハウス・ オブ・ザ・イヤー・イン・エナジー)を受賞したのだ。
「我々のような断熱材はもともとはまったく受け付けてもくれなかったんですが、この賞のスポンサーである電力会社が『こういう会社も受け付けたほうがいい』となったらしくて。ランニングコストのデータを見れば、一目瞭然ですからね」と福地氏。ついに既成の障壁を突き破った福地建装は、それから同賞を何度も受賞している。
ちなみに「オール電化住宅を日本で一番最初につくったのは福地建装」と東京電力の資料に書かれていると、まことしやかにささやかれているという。「それは誰も確認したわけじゃないんですが」と彼は笑うが、当時から住む人に最適な住宅を考え、革新的な技術に積極的に取り組んでいた福地建装なら、それはきっと真実なのではないか、と思った。

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