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建設職人甲子園理事長・石井 賢氏は問う、「あなたは自分の子どもに、職人の仕事の価値を伝えられているか?」【後編】

建設職人甲子園理事長・石井 賢氏は問う、「あなたは自分の子どもに、職人の仕事の価値を伝えられているか?」【後編】

いま職人にこそコミュニケーションが必要だ

さて、そろそろ話題を建設職人甲子園に移すとしよう。

石井氏には3代目理事長として、さらなる発展に向けて舵取りが期待されるところだ。「九州は独自のコミュニティができていて、いますごく盛り上がっている。今度、ぜひ九州大会の取材に来てください」と嬉しそうに話す。爆発の萌芽を感じ取りつつも、それでも大切なのは、日々の活動なんだとか。

「既存の会員がたまたま居酒屋で居合わせた他の職人さんと話せば、職人なら思い悩んでいることはだいたい一緒なので、『じゃあ、どうすればいいの?』みたいな会話になる。その延長線上に、甲子園活動がある。すでにそこで甲子園活動ははじまっているんですよ。だから日々、じわじわ、じわじわと参加者が増えていっていますね。大きなことをやって一気に人が集まるようなものではないので、地道に、地道にって感じです」

それでは建設職人甲子園の課題は? と尋ねると、「正直、建設職人にプレゼンテーションをしてもらうのは非常にハードルが高くて……」と漏らした。……なるほど、なんだか納得。

「もともと人前で話すのが苦手で職人になった人ってけっこう多いんですよね。自分の想いをモノに託し、表現するのが職人ですが、それをあえて言語化して、伝えることに慣れていない。そういった人間が集まっているので、結果として日々のコミュニケーション不足が生まれたり、『見て覚えろ』という技術伝承のやり方になったりするんですけれど……。でもいまは『見て覚えろ』じゃ誰も付いてこない。これからの経営者はいかに職人に寄り添い、『いまなにに行き詰まっているのか』など、しっかりと言葉でコミュニケーションを図らなければいけないと思います」

ただ、石井氏は、なにもすべての職人をプレゼン上手にしたいわけではない。建設職人甲子園に取り組む過程で「生みだされるもの」を重視しているのだ。

「自分たちは、ある意味で“究極におせっかいな第三者”なんです。職人さんには『なぜ下を向いてるの?』と寄り添い、『社長には言えない、若い衆にも言えない。でも、あんたたちだから言えるんだけれどさ』と誰にも言えない悩みを打ち明けてもらえ、その課題を共に解決していく団体でありたい」

「末端の職人さんが学び、成長できる場はそうないと思う。でも会社のナンバー2、ナンバー3になっていった際に経営者と職人の板挟みにあって、どうしていいか分からなくなることもある。そんな時には近くの甲子園会員にどんどん頼って悩みを打ち明けてほしいんです。

自分たちは別にそれでお金をもらえるわけでもないですけれど(笑)、いろいろな会社のケースを見れば、その事例を自分の会社に落とし込めるし、人材育成やチームづくりに役立てられるので。われわれも学ばせてもらっているんです」

昨今、ツイッター上で盛り上がっている建設職人たちの動きを例に出したところ、「いろいろな団体に顔を出して、情報交換していきたいな」と興味津々のようす。

「『建設業界をなんとかしなきゃ』と思っている団体や集まりって、もちろんウチだけじゃないと思うんですよ。ただ、団体間の見えない壁があるので、そのあたりを取っ払っていきたいなと。甲子園もよく言われるんですけれど『仲が良すぎて入りづらい』んです。内輪感が出ちゃうと、どうしてもね(苦笑)。でも、お互いの団体のいいところを持ち寄って情報交換できれば、この業界はより良くなっていくと思う。それをつなげていくのも私の仕事かなあと」

建設職人甲子園はプレゼンテーションありきの閉じたイベントではない。実際の会場を目の当たりにすれば分かるが、次世代の担い手である子どもたちが職業体験できるブースを設けた、とてもオープンな場でもある。しかしまだまだできることはある、と石井氏は自分に厳しい。

職人が甲子園を通して会社を良くしていき、それをエネルギーとして建設業界が盛り上がるよう、さまざまな手立てを尽くしていきたい。そう語る彼の眼は、しずかに燃えていた。

あのころのような、かっこいい職人に

なにか事件が起きるたびにテレビや新聞の報道で被疑者について「建設業の○○」「土建業の△△」という表現が飛び交う。あれが「建設業=怖い」イメージを世間に植え付けているのではないか、という話になった。石井氏も「あれは『元塗装工』というのが多いんですよねえ」と苦笑しながらもこう言った。

「あれは自分たちが過去から積み重ねてきたもので、自分たちの責任でもある。そういったイメージになってるのなら、それは自分たちで払拭するしかないですよね」

……いやいや、それはいくらなんでも背負い込みすぎなんじゃないですかと突っ込みたくなったが、彼の真剣なまなざしにハッとした。真面目にこの業界を良くしようと思っているから、この甲子園の理事長を引き受けたのだ。これが本気になった建設職人の“覚悟”か。石井氏は続ける。

「建設業には昔から負のイメージがあったと同時に、昔はもっとかっこいい大人が、かっこいい職人がいっぱいいたんです。そういう人たちに憧れて、自分たちはこの世界に入った。だからいま、下を向いている職人が多いので、もっと胸張って、顔をあげて、『俺はこれでメシ食ってんだ』って、声高らかに宣言して、前を向いてもらいたいんですよね。コンビニの前で座ってうなだれてたら、若い子たちは『ああはなりたくないな』って思いますよ」

精神論じゃ課題は解決できないけれど、志がなければ折れてしまう。顔を上げて、前に進もうぜ。石井氏は、すべての建設職人に、こう問いかける。

「いま一度、自分たちの誇りと価値を自分たちが見つめ直してほしい。自分の子どもに、本当に自分の仕事の価値や誇りを伝えられるのかと。子どもに自分の仕事をしてほしいって、胸を張って言えますか。そういうことを言えなければ、若い子たちもそれを感じ取って、そんな業界になんて入ってこないですよ。まず一人ひとりが自分たちを見つめ直して、もう一度、誇りと価値を見いだしてもらいたい」――。

 

石井氏は当社でのインタビュー中、微笑みながらこんな話をしてくれた。

「ここに来る前に、『建設の匠とは』をあらためて読んでいたんです。『建設の匠とは』を『建設職人甲子園とは』って言葉に置き換えれば、私たちが伝えたいようなことがすべて書いてあって、本当に同じ考えなんだなあと思いました」

強面に見えるけれど、心根はやさしい。そんな彼の「建設職人をつないでいきたい」という想いは、静かに、しかし着実に浸透していくだろう。彼の主導ならば、建設職人甲子園はより広がっていきそうだし、建設職人のゆるやかなネットワークが実現するのも、そう遠い日ではないかもしれない。まずは来年の建設職人甲子園が楽しみでしかたがない。

インタビューを終え、握手を交わし、次の予定の場所に向かっていく石井氏。その背中はとても大きくて、とてもたのもしく見えた。

 

 
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「建設の匠」編集部
「建設の匠」編集部
「建設の匠」編集部の中の人。ひとりで取材したり記事を書いたり写真を撮ったりしております。ツイッターは@KensetsuTAKUMI、フェイスブックは@kensetsutakumi2018。
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