日建設計社長・亀井忠夫氏は「パッションと調整力」の両輪で世界最大級の設計事務所を牽引する【後編】

世界最大級の組織設計事務所、日建設計。建築設計の仕事がAIにとって変わられることなどないように、優秀な人材確保に余念がない。ではその育成方針は、チームのベクトル合わせはどのようにしているのか?
写真/髙橋 学(アニマート)
日建設計の人材育成の課題とは?
一方で人材育成面はどうかというと、中堅社員や管理職者の研修についてはまだまだ充実させている最中だとか。
「さまざまな研修メニューがありますが、どちらかというと技術的な面の研修です。部下を持ったときのコミュニケーションの仕方など、そういう研修は不十分かもしれないですね、たしかに」と亀井氏。
また中途採用も新卒と同じぐらい採っている日建設計だが、彼らに対する研修制度についてはまだ構築中の部分もあるのだとか。ダイバーシティが保たれるのは結構だが、日建設計のカラーが浸透していなければ、企業としての方向性はバラバラになってしまう。カルチャーフィットが現時点におけるひとつの課題ではあるようだ。
そこで現在、亀井氏らがおこなっているのが「Quarterly Message」という会である。
「経営側から、いま自社に関する旬の話題を社員にとにかく提供するんです。『進行中のプロジェクトはこういうものです』『海外ではこんなことが起こっています』、あるいは『こんなことがいま、問題になっています』など、プロジェクトや経営課題の話をするために3か月に一度、東京、大阪、名古屋、九州を巡業し、また同時中継もしています。そこで社員のみなさんから質問を受ける時間も取っている。こうしてダイレクトコミュニケーションを図ろうとしています」
もともと先輩後輩、上司部下に関わらず「さん」付けで呼び合うフラットな文化があるという日建設計。それでも伝わらない想いがあるなら、会いに行けばいいし、話を聞きに行けばいい。きわめて分かりやすい。
「それから」と亀井氏は続ける。
「当社は食堂がないので、2週間に一度ぐらい、各フロアで一緒にランチ会をやっていて、ふらっと昼食を食べに行きます。わたしと副社長とで各フロアをまわっているんですけれどね」
3か月に一度の「Quarterly Message」、2週間に一度の「フロア別ランチ会」――。海外出張も多いであろう日建設計社長としては結構な頻度のように思うけれど、それでも亀井氏は全国のオフィスや本社の各フロアを訪ねまわる。どれほど彼が日建設計という「チーム」のコミュニケーションを重視しているかがお分かりだろうか。
「わたしたちが社員に対して思っていることと、社員の人がわたしたちを見て思っていることは、かなりズレがある場合もある。こちらがフラットに付き合っている、あるいは話していると思っていても、向こうから見れば、ぜんぜん違うとか……。そういうことに気づく、いわゆる気づきの場です(笑)」
「会いに行けるアイドル」ならぬ、「会いに来る社長」。それもプロジェクトを成功させるため、対等に意見を出し合える日建設計の社風を保つために、生み出されたものなのだ。

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