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建設業界のイノベーター・助太刀CEOの我妻陽一氏は「『業界をぶっ壊す!』ではうまくいかない」と堅実に歩を進める【前編】

建設業界のイノベーター・助太刀CEOの我妻陽一氏は「『業界をぶっ壊す!』ではうまくいかない」と堅実に歩を進める【前編】

建設業の経験を活かしたり、それに縛られたり

ちなみにマッチングアプリ「助太刀」の原型となるアイディアを思いついたのは、このMBA在籍時なのだが、興味深いのは、この時点では自分の経験を活かして建設業界を変えるスタートアップをつくろうとしていたわけではないことだ。むしろ……。

「後期課程に入ると、ビジネスリサーチという企業研究か、それとも新しいビジネスデザインをつくるか、いずれかで修士論文を書きます。ぼくは当然『新しいビジネスを考えよう』というほうが楽しかった。のちの共同創業者と一緒にいくつかアイディアを出し合って、インバウンドや外国向け事業、教育事業などをいっぱい考えたんですよ。助太刀は、その中のひとつでしかなかった

ふいに「ぼくはゆでガエルだった」と当時を振り返る我妻氏。どういうことです?

ぼく自身が、助太刀のアイディアの革新性にあまり気付いていなかったんですよ。300万人いる建設職人の手配の手段が電話連絡のみだなんて考えてみればおかしいんだけれど、ぼくもずっと建設業界にいたので、『まぁそんなもんでしょ』と思っていた」

ところがMBAでも、修了後に通ったプログラミング学校でも、彼のいくつものアイディアの中でもっとも反響が大きく、「実現すればすごいことになるぞ!」と言われたのは助太刀だったのだ。建設業界を俯瞰的に見られるようになっていた我妻氏も、「実は自分がいた世界に、一番解決すべき問題があったのか」と理解するに至った。

2017年3月、MBA修了後に「東京ロケット(助太刀の前身)」会社登記。プログラミングを学び(ようやくここでITの話が出てきた!)、半年後にデモ版を完成させた。それがベンチャーキャピタルのあいだで話題を呼び、資金調達の声がかかりまくる。――いまからわずか1年半前の話なのだから驚きだ。

保守的な考え方の持ち主が多い建設職人に、当初は「アプリで集めた職人なんて、大丈夫なのか?」と疑われたそう。そんなときにはどうしたかというと、「『ぼくも電気工事会社の社長を10年やってきたんですよ。いままで人集めで困ってきたでしょう? それを変える仕組みなんです』と言えば、みんな相好を崩して『なるほど、そうなのか』と仲間のように受け入れてくれた」。

建設業界にいたからこの複雑な構造を知っていたし、いまでも同じ目線で話ができるのは得だと思う」と語りつつも、我妻氏はかつて生粋の建設パーソンだった自分を、冷静にこう見る。

MBAに通い、建設業界と距離を置いて考えていたからこそ、根本的な問題に気付けたのでは、と思います。ずっと施工管理をやっていたり、電気工事会社の経営者をしていれば、『あくまで現状の範囲内で便利にしよう、効率を上げよう』程度のものしか考えつかなかったかもしれない」

「建設職人のみんなにパソコンで情報を登録してもらって、それをデータベース化すればいい」

誰もが考える夢のような話である。いわゆる「建設キャリアアップシステム」もその類だろう。しかし、すべての建設職人に向けてスマホアプリをつくるという発想は、さすがに日本中のどこにもなかった。

なぜか。それは当時、「建設職人はスマホを持っていない、持っていたとしてもアプリを使いこなせるわけがない」という先入観があったからだ。一方で、iOSやAndroidのアプリ開発は大変な労力と費用がかかる。参入するにしてもきわめてリスクの高い事業だったのだ。

しかし我妻氏は、それまでに建設現場で目の当たりにしていた。詰所や車の中で、建設職人がスマホを使ってゲームアプリにいそしんでいるのを。スマホの爆発的な普及も追い風になった。「多くの建設職人も、現場に出ていたときのぼくも、パソコンなんて使ったことなかったけれど(笑)、『職人とスマホの相性はいい』と確信していました」

彼だって、長く同じ世界に浸っていたがゆえに「当たり前」に染まり、ゆでガエルのごとく思考停止してしまう寸前だった。既成の概念を疑い、思い切った決断をする――そんな我妻氏のアクションには素直に脱帽する。

さて、助太刀のようなスタートアップにとってはスピード感が重要だ。では彼もやはり、建設業界を一気にひっくり返そうと勢い込んでいるのか――と思いきや、筆者のその予想はあっさり裏切られたのである。

 

写真/髙橋 学(アニマート)

 
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「建設の匠」編集部
「建設の匠」編集部
「建設の匠」編集部の中の人。ひとりで取材したり記事を書いたり写真を撮ったりしております。ツイッターは@KensetsuTAKUMI、フェイスブックは@kensetsutakumi2018。
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