乘京正弘社長は飛島建設を「ダム建設の匠集団」から「社会に開かれたダイバーシティ建設企業」へと跳躍させる【後編】

飛島建設社長・乘京正弘氏に迫るインタビュー後編。彼が静かに口にした、これからのゼネコンが求める人材像とは……?
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写真/髙橋 学(アニマート)
これから求める人材は「失敗できる人」
ただ……と人材について希望を口にする乘京氏。
「もっともっと、チャレンジする人が多くほしいですね。みんな真面目というか、指示待ちというか……自分から失敗する人はなかなかいない。もちろん失敗したくて失敗するわけじゃないけれど、みずから動いて失敗する人がもっと増えていかないとね」
“失敗”について、彼はアメフト部出身らしく、パスの練習にたとえた。
「よくスポーツ選手が『練習でできたことしかできない』なんて言うけれど、それはレベルが低いんですよ。自分はアメフトでパスを取る係でしたが、パスを取る練習ばかりしていても、『どうなったときに手から落とすのか』までは分からないんです。それは『手に当たる前に胸に当たったから弾んだ』などの理由がある。確実に両手で取るのではなくて、片手で取ってみるぐらい、むりやりに失敗してもいい」
それでは乘京氏の経験した失敗とは? と軽い気持ちで尋ねてみた。すると彼は「もう毎日が失敗ですわ。生まれてきたこと自体が失敗」などと茶化しつつ、「でも、自分の担当現場で死亡事故を出したというのは大きな失敗です。それはものすごく胸に残ります。それ以外の失敗なんか、たいしたことない」と言い切った。
「死亡事故」……そのワードにハッとした。そういえば、飛島建設は殉職者・物故者合同追悼法要を毎年おこなっている稀有なゼネコンだった。それは今年で107回を数えるという。人の死をしっかりと重く受け止める飛島建設だからこそ、それ以外の失敗は「かすり傷」だと捉えられるのかもしれない。
「やってみなはれ」と言ったのはサントリー創業者・鳥井信治郎だけれど、「なにもしないぐらいやったら、失敗ぐらいしてもかまへんし。議論ばかりして、一歩も動かへんのやったらそんなのやめて、まず一歩、動いてみい。で、アカンかったら、引っ込めりゃええやん。意地になってやりつづけるのもおかしい。アカンと思ったときにやめりゃいい」と語る乘京氏の言葉にもまた、強い説得力を感じずにはいられなかった(※そのニュアンスを伝えたくて、このフレーズはあえて彼の関西弁をそのまま書いている)。
乘京氏はそれほどに人間の力を信じ、これからの人材に期待している。いまの若い人(に限らないだろうが)には現在の建設業界に不安を感じて身を投じるべきか悩み、また業界の閉塞感に悩んでいる向きもあろうが、「悩んでいるぐらいに選択肢にあるのなら、うちにどんどん来てほしい。いろいろなことができるよと訴えたい」と熱く語る。
「いままでは(3Kのイメージで)『炎天下でものをつくっているだけ』と思っている人が多いかも分からないけれど、建設業は本当にいろいろなことをやっている業界なんですよ。しかも一つひとつ、違うものをつくっている。みんなで協力し合って、ものをつくって、できあがったときの感動というのはなかなか味わえないもの。ちなみに飛島建設の目指す新3Kは『協力し合って』ものをつくり、できあがったときにみんなで『感動する』。そのつくったものが世間で『貢献している』――です」
仮にAIが人間の知能を超えても、ロボットが人間の能力を超えても――建設業界に人間、そしてゼネコンは必要ですかね?
「必要ですね。プロの棋士がAIに負けても、人間が変わらず将棋をしているのは、人間対人間のほうがおもしろいからです。建設現場で汗だくになって働くことは魅力的で、それに向いた人もたくさんいるはず」と彼は言い切った。

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