ユーコーコミュニティー社長・阿部真紀氏は「女性が働きやすい職場づくり」の失敗からどう挽回したのか【前編】

「女性活躍」という言葉に違和感を覚える時がある。特に「(男性を主として)女性も活躍させてあげる」というスタンスが透けて見える時、それで本当に女性が活躍したことになっているのだろうかと。女性をむしろ枠の中に閉じ込めてしまっているのではないか、と思わされる「女性活躍」もある――。
性差はたしかに存在する。それぞれ向き不向きもある。そんな事実を受け止めた上で、「女性とは、人間とは何のために働くのか」をフラットに考える塗装会社があった。
写真/奥村純一
「女性が働きやすい職場」ではダメだった
「『女性でも働きやすいですよ。そんな仕事ですよ~』という面をアピールしていたんですが、創業間もない社員数名の会社が、女性にとって働きやすい環境を整えられていなかった。そもそも会社として未熟でした。それが1点目の問題。
そしてもうひとつ。働きやすさばかりをアピールすると、働きやすさだけを求めてくる女性がやってきました。塗装業の仕事は職人の現場仕事なので足場にのぼったり、暑かったり寒かったり、当然、大変なこともある。『働きやすさ』にだけ共感して来てくれた女性は、少しでも『辛い』『大変だ』、つまり『働きやすくない』と思えば、すぐ辞めてしまう。いわゆるミスマッチです。その二点でドツボにはまりました。かなりの失敗……でしたね(苦笑)。ようやく気づいたのは数年後のことなんですが」
神奈川県厚木市に拠点を構えるユーコーコミュニティーの社長、阿部真紀氏はこう語る。
ユーコーコミュニティーは2009年創設の塗装会社だ。抱える職人の半数以上が女性であることが近年、マスメディアに数多く取り上げられ、「女性活躍」の象徴的な存在として注目を浴びている企業である。女性社長が女性職人をたくさん抱え、華やかな仕事に従事する……たしかに、メディア受けする構図だ。
しかし前述したように、ユーコーコミュニティーで女性職人が定着するには、長い試行錯誤の期間を要した。ユーコーコミュニティーの共同創業者である伊藤 豊氏(現会長)と阿部氏は、創業時から「塗装業を花形業界に変えていきたい。そのためにはやはり女性の活躍は重要な要素だ」という思いを抱いていたのに――。
「失敗し続けて4、5年目に、ようやく気付いたんです。『そもそも私たちは、ユーコーコミュニティーを本当に『女性が働きやすい職場』にしたいのか?』と。そうじゃなかった。それは別に求めていなかったんだ、と」
男性中心につくられた社会をあらため、女性に合わせ、女性が働きやすい環境をつくる、というのはセオリー通りのやり方だ。職場やトイレをきれいにする。産休育休などの制度を設ける。時短の仕組みをつくる。ただ、それで本当に女性のためになっているのか。女性のための配慮は、女性の「枠」をより強固なものにしてしまうだけなのではないか。
性差に関係なく、人間として、仕事で活躍する上で大切な条件とは?
「入ってくれた人にとって『働きやすい環境の会社』よりも『働きがいがある会社』。私たちはそれを風土としてつくり上げようと。それで、入社してくれる人たちにしっかりとメッセージを伝えることにしました」
現場で働く、イコール、朝は早い。夏は暑い。冬は寒い。日焼けもする。環境はまだしっかり整っていないのが現状だ。それらをしっかり事前に伝えた上で、「塗装業はやりがいがある仕事で、私たちはユーコーコミュニティーを日本一の塗装会社にしたい」と想いを語る。それでも「この会社、なんだか面白そう」「業界を変えるって大きなことを言っているけれど、なんだか惹かれるな」と共感してくれたり、つらいことがあっても頑張りたいと思ってくれる女性にこそ入社してもらいたい――。阿部氏の腹は決まった。

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