ユーコーコミュニティー社長・阿部真紀氏は「女性が働きやすい職場づくり」の失敗からどう挽回したのか【前編】

塗装業=クリエイティブな仕事
ここまで読んで、「やりがいをアピールし、夢を語るだけで、人材が集まるのか?」と疑問を抱いた読者もおいでだろう。たしかに人材難の時代、それで狙った人材が集まるならば誰も苦労しない。
阿部氏が人材供給先のメインターゲットとしたのは、美術・芸術大学/学部出身者(以下、『美大生』)だった。
美大生は絵画や彫刻などの美術が好きで、あるいは得意で、それを専門に学んできた学生だ。しかし就職の際に、美術の専門性を活かした職業に就いているかというと、38.4パーセント(『美術系学生就職活動実態調査報告2018』より)。あとはまったく関係のない事務系の仕事に就いたり、フリーターや派遣社員として働いたりしている。そもそも受け口となる職業がそれほどない、というのが現状ではないだろうか。これまで学んだことを活かせないなんてもったいないし、現実の壁にうちひしがれ、くすぶる人がいてもおかしくない。
そこにさっそうと現れたユーコーコミュニティーは、美大生のハートを射抜く鮮烈なメッセージを放つ。「塗装はアートだ!」と。
「美大生のあいだでも『塗装業は男社会でガテン系』というイメージが定着していたので、『私たちは家にペンキを塗るだけではなくて、絵も描いている。こんな仕事で街をカラフルに、華やかにしていくんです」という話をする。すると『いままで自分が勉強してたことや好きなことを、そのまま仕事にできるんだ!』とがぜん興味を持ってくれるんです」
いささか強引な前提条件設定かもしれないけれど、「三度の飯より絵を描くことが好きな人」が美大生なのだとすれば、彼女たちの欲求を満たせるこの仕事はとても魅力的に映るにちがいない。仕事で絵を描けて、お給金がもらえて、なおかつお客に感謝されるのだから……!
「学生の頃は絵を描けば、コンクールに入賞か否かなど、良くも悪くも“評価”されるんですよね。それがいまやお客さんの家に絵を描けば、評価されるのに加えて、面と向かって『こんなかわいい絵を描いてくれて、ありがとう』『この絵はすごいね』とお礼される。美大出身者はお礼を直接言われるのがすごく新鮮なようで、『それがやりがいになる』とよく言っています」
評判が評判を呼び、いまや全国の美大生が応募してくる。離職率も約4%という驚きの低さだとか。
「私たちが一般的に認識されている塗装のメンテナンス会社であれば、おそらく彼女たちは入社してくれなかったでしょうし、仮に入社したとしても、そこまでのやりがいを感じられなかったかもしれない」としみじみ述懐する阿部氏。
「絵は一戸建てにワンポイントイラストを描きます。たとえば飼い猫のワンポイントイラストを自宅に描けば思い出づくりになる。店舗にとっては集客になる。最近、幼稚園からの依頼も少しずつ増えてきているんです。
建物の塗装はメンテナンスだけではなく、アートだという一面もあり、“アート”という付加価値を提供することで、思い出づくりや集客、園児の笑顔、まちづくり……私たちが当初、想定してなかったほど広がりを見せてきています。職人たちも自分の取り組んでいることが社会に貢献している空気を感じられるのが、大きなやりがいになっているのかな」

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