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「社会資本は概成」の姿勢崩さず/ストック効果にすら疑問呈す/財政審が公共事業費削減へ主張展開
// 本文の表示 画像がセットされていない場合は、画像分の余白ができてしまうのでtxtクラスは使わない。 ログインしていない場合も画像は表示しない。?>「防災・減災、国土強靱化のための3か年緊急対策」後の公共事業費削減へ、財務省が主張展開を始めた。人口減少に伴う人口1人当たりの社会資本の維持管理コストの増加や建設業の労働力不足を理由に予算規模の量的拡大を否定。「社会資本が概成しつつある」との言説も維持した。堤防やダム整備の進展により近年の激甚災害の頻発化に対して被害を抑えているにもかかわらず、「宅地等浸水面積は横ばいで推移」などとストック効果にまで疑問を呈している。
財務省は19日、財政制度等審議会(財務相の諮問機関)の財政制度分科会歳出改革部会を開き、今後の社会資本整備の基本的方向性について議論した。
財務省は3か年緊急対策のうち、2019年度の単年度支出率の低さや近年の公共事業費の繰越額の増加のデータを提示。その背景として、建設業者の手持ち工事量の増加や技能者の有効求人倍率の高さを指摘し、「足元で建設労働需給がひっ迫し、今後労働力人口が減少する中で建設業の労働力確保がさらに困難になると見込まれる」と展開した。
一方、提示されたデータを建設業の最近の実態に即して分析すると指摘は必ずしも当たらない。3か年緊急対策の支出率は53%と直近5年平均の当初予算支出率(70%)よりも低いものの、契約率で見ればいずれも80%超となっており、年度をまたいで事業を執行しているだけということが分かる。繰越額の増加も執行の問題というより、近年の施工時期の平準化のための取り組みとして、意図的に進めていることが理由だ。
手持ち工事量は、リーマン・ショック直後と比べれば増えているというもので、その幅も約10カ月分(09年)から約14カ月分(20年)に増加した程度だ。前年同月比では、15年以降ほぼ横ばいで推移している。有効求人倍率も建設業界では全体の4割超が縁故で入職しており、この数字だけで人手の過不足の判断ができないことは明らかだ。
建設業側の施工余力が十分であることはデータから読み取れる。さらに言えば、新型コロナウイルス感染症の影響による民間投資の減退が指摘されていることからも、継続した公共予算の規模確保は不可欠であるはずだ。
◆建設業の実態と乖離
財務省は会議の中で、入札契約方式や公共事業評価の手法についても言及した。北陸新幹線(金沢~敦賀間)の工事での不調・不落の発生を例に、「見積活用方式を採用した際に1社応札で高落札率の契約が多数生じ、効率的な事業実施が困難な構造となっている」と主張。
加えて、新幹線整備について、「費用対便益分析(B/C)が1を切る事業を実施することは不適切」との認識を示した。
こちらも建設業の実態やこれまでの議論を無視した論説だ。見積活用方式を採れば、落札率が高くなることは当然で、むしろ早期の開業に向け実勢価格に即して効率的に事業を実施していると言える。公共事業評価でも、費用便益分析を含め総合的に実施すると規定されており、B/Cが1以上であることが必ずしも採択要件ではない。
財政審での議論だけに主導され、必要かつ十分な公共事業費の確保や適切な事業評価、契約手法の活用がなされないといった事態になればそれこそ、安心・安全な国土づくりやニューノーマルに対応した地方創生は果たせない。今後の予算編成過程を注視する必要がある。
残り50%掲載日: 2020年10月20日 | presented by 建設通信新聞