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プロジェクト・アイ/簗川ダム建設・堤体工(盛岡市)/施工は清水建設JV
// 本文の表示 画像がセットされていない場合は、画像分の余白ができてしまうのでtxtクラスは使わない。 ログインしていない場合も画像は表示しない。?>◇ボタン一つで自動打設/工期短縮と省人化の両方実現
ボタン一つで現場のさまざまな機械が動きだし、コンクリートの製造から打設までを自動で施工する-。そんな工事の「全自動化」が現実になりつつある。清水建設・鴻池組・平野組JVが施工する盛岡市の「簗川ダム建設(堤体工)工事」では、清水建設が開発した「ダムコンクリート自動打設システム」を使った作業省力化の試みが行われている。システムは人手不足に悩む建設業の課題解決につながるのか。最先端の建設現場を取材した。
簗川ダムは、盛岡地区東部の洪水・渇水被害対策を目的に岩手県が計画する重力式コンクリートダム。規模は堤高77メートル、堤頂長249メートル。堤体積は23万立方メートルある。冬の休止期間を経て3月末から再開したコンクリート打設で、このうち3万立方メートルにダムコンクリート自動打設システムを適用した。
システムは軌索式ケーブルクレーンを使うダムコンクリートの打設工事を対象とする。バッチャープラント(コンクリート製造設備)への材料供給からケーブルクレーンによるコンクリート運搬、打設までの一連の作業を自動化するシステム。日本建設機械施工協会が主催する2019年度日本建設機械施工大賞・大賞部門では最優秀賞を受賞した。
施工管理者がコンクリートバケット(鋼製容器)の運搬先となる打設位置の3D座標と、投入するコンクリートの配合種別などのデータを入力すれば、自動施工の準備は完了する。入力後は骨材貯蔵設備、バッチャープラント、トランスファーカ(運搬台車)、コンクリートバケット、軌索式ケーブルクレーンなどの各設備が連動して動きだし、コンクリートの製造、運搬、打設の一連の作業を完全自動で繰り返す。バッチャープラントの中身が減ると自動で供給される。
システムが行った打設はすべてデータとして保存されるため、コンクリートにクラック(ひび割れ)が生じた場合は記録をさかのぼって原因を探ることも可能。自動打設の進捗(しんちょく)は随時確認でき、総合管理画面にはバッチャープラント、軌索式ケーブルクレーンなどの各設備から出力される動作信号を基に、リアルタイムの打設状況がビジュアル表示される。
手作業でバッチャープラントやコンクリートバケットなどの機械を操作する場合、ケーブルクレーンが1往復してバケット1杯分(コンクリート5立方メートル)を打設するのにかかる時間は、約3分40秒だった。これに対し、システムで自動で打設した場合は約3分20秒と、約10%短縮。工期短縮と省人化の双方を実現できることを確認した。
システムの開発に携わった山下哲一土木技術本部ダム統括部主査は「一連の作業にかかる人員を15人から10人に減らすことも可能だ」と試算する。
システムを適用することで特に負担軽減が期待されるのが、ケーブルクレーンのオペレーターだ。打設箇所はオペレーターがいる操作室からは直接目視できないため、オペレーターは打設地点にいる作業員の合図を受けて操作する。簗川ダムの現場のコンクリートバケットは、多い日だとトランスファーカと打設箇所を1日当たり200往復することもあり、この作業を自動化することでオペレーターにかかる負担を大幅に軽減できる。
打設箇所に正確にバケットを下ろすには熟練の技術を必要とするが、システムを使えば自動で設定された箇所に運搬するため、経験の浅い若手のオペレーターでも熟練のオペレーターと同等の精度で正確な位置に下ろせる。オペレーターはコントローラーに手を添えるだけで、基本的には手動による操作を必要としない。
「数十年前からケーブルクレーンを使ったダム工事の件数は減少しており、オペレーターを育成する機会も減っている」と指摘するのは、現場を指揮する清水建設の森日出夫所長。「年々、優秀なオペレーターを確保することが難しくなってきているが、システムを適用すれば、熟練のオペレーターがいなくても効率的に作業できるようになる」と期待感を示す。
山下主査は「今後は軌索式ケーブルクレーンを使うダム工事でシステムを標準装備していきたい」とシステムの展開に意欲を見せた。
コンクリート打設の進捗率は6月12日時点で95%に達した。今月中にも完了する予定だ。森所長は「コンクリートの打設が進むことで堤高が高くなり、高所での作業になってきている。最後まで安全に作業し、無事故で竣工を迎える」と気を引き締める。今後は20年10月ころ、ダムに水をためて機能などのテストを行い、21年3月の完成を目指す。
残り50%掲載日: 2019年7月2日 | presented by 日刊建設工業新聞