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  • 都内で企画展「東京計画2019」/5組のアーティストが作品展示/東京の将来考察

     高度経済成長期に建築家の丹下健三らが提唱した都市構想「東京計画1960」をベースに企画された5回シリーズの展覧会「東京計画2019」が、東京都千代田区のgallery αMで開かれている。2020年東京五輪・パラリンピックに向かって一直線に進む東京の行き着く先を、5組のアーティストが表現。東京や丹下、そして五輪に対する「アンビバレント(相反する感情)な思い」が交錯するスリリングな作品群が展示されている。

     

     4月にスタートした展覧会は現在3組目の展示に入っている。現代の都市をリサーチして作品化するアーティストグループ・Urban Research Groupが「引っ越し」をテーマに14日まで展示している。リサーチ先で出会った人から譲り受けた粗大ごみとともに、引っ越しに至った経緯や個人の事情が語られる。

     

     「都市計画という既存の枠組みから漏れ出てしまうものがある。その象徴が引っ越し。個人の欲望や人間関係、マーケティング、単なる偶発性。さまざまなことに人間の一生は左右されている。この展示では、あらかじめの計画では捉えられない、実際にはいびつな人生のありさまをすくい上げている」。東京計画2019を企画した東京都現代美術館学芸員の藪前知子氏はそう説明する。

     

     藪前氏は、芸術だからこそ生み出せる「中間領域」があると主張する。既存の枠組みが機能しない場合に異なる枠組みを用意し、意見の対立には第3の視点を提示する。さらには対立する両者が出会う場をつくるのが芸術の役割だという。

     

     企画の背景にはあるのは来年の東京五輪だ。五輪を目前に東京ではスクラップ&ビルドの勢いが増し、街の様相も一変している。初回を飾った毒山凡太朗氏は、街の中に誰のものでもない公共的空間をつくるという難題を、アーティストらしいユーモアをもって乗り越えてみせた。藪前氏は展覧会の目的の一つをこう語る。「五輪が終わった後、どうサバイブするか。その戦略を立てるようなもの」。

     

     第2回に登場した風間サチコ氏は、過去に線が引かれた都市計画が不気味な姿で具現化する様子を版画に描いた。旧来的な都市計画の象徴として丹下健三もモチーフとなり、作者を含む個人と対比されている。「戦前から丹下は国家や国民に形を与え、その象徴を造るタイプの建築家だったと思う」と分析する藪前氏。「ただ、そこに多様性とは真逆の視点が含まれていなかったか」と疑問を投げ掛ける。

     

     4組目は電気や建築など専門技能を持つメンバーで構成するミルク倉庫+ココナッツ。一人一人が小さな空間で創作する「料理」を通じ、都市計画の概念をひっくり返す意欲作を計画している。締めくくりとなる中島晴矢氏は、1964年に開かれた前回の東京五輪時に批評的な芸術活動を展開した当時のアーティストらにオマージュをささげる展示となりそうだ。

     

     展示される作品はいずれも一つの意味にはくくれないものばかりだ。東京や丹下、五輪といった創作のモチーフに対する愛憎相半ばする感情も読み取れる。藪前氏は強調する。世の中が一つの方向へ突き進む時、芸術の真価は問われる。「五輪に限らず、現在の東京の動きに対するアンチテーゼの意味合いはある。芸術という中間領域を通じ、複数の方向があることに気付いてもらえたらうれしい」。

     

    □丹下健三を「個」から/藪前氏に聞く□

     

    --丹下健三は東京計画1960で、東京の湾岸エリアから海上へと連なる壮大なスケールの都市計画を構想した。展覧会のモチーフとした理由は。

     

     「都市計画の枠組みを体現している存在として丹下を思い浮かべた。今回の展覧会のそもそもの狙いは『計画』という考え方を批評することだ。さまざまな可能性を絶ち、神の視点で計画するという発想はどういうことなのか。丹下を『個』の側から見返すような展示を意図した」

     

     「私たちには丹下の計画へのアンビバレントな憧れがある。それは成長や発展を何の疑いもなく志向できた幸福な時代への憧れとも言える。実際に丹下の計画は今の湾岸エリアなどに影響を与え、東京の景観の中に亡霊のように生き続けている」

     

    --現在の都市には東京計画1960のようなビジョンさえ無いのでは。

     

     「丹下にも人間の幸福への哲学はあっただろう。今はそれも失われ、大きな流れに、ただ流されている。人間の幸福は数値化できるものではない。複数の声をすくい上げる、これまでの計画とは異なる思考の枠組みが必要とされている」

     

    --建設関係者にはどう見てほしいか。

     

     「皆さんが造っているものの『その後』を想像してもらうための展覧会かもしれない。今、向き合っている仕事の50年後の未来をちょっとでも想像してもらいたい」。

     

    《展覧会スケジュール》

     

     4月6日~5月18日:毒山凡太朗

      6月1日~7月13日:風間サチコ

      7月27日~9月14日:Urban Research Group

      9月28日~11日9日:ミルク倉庫+ココナッツ

      11月30日~2020年1月18日:中島晴矢

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    掲載日: 2019年9月3日 | presented by 日刊建設工業新聞

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