建設技術者向けNEWS
建設技術者の方が知りたい情報を絶賛配信中
会員登録いただくと無料で閲覧可能です!
-
領域拡大への対応必要/学部教育の「予備校化」懸念も/建築学会と全建教/次代の建築教育を展望
// 本文の表示 画像がセットされていない場合は、画像分の余白ができてしまうのでtxtクラスは使わない。 ログインしていない場合も画像は表示しない。?>改正建築士法が建築教育の現場に大きな波紋を呼んでいる中、日本建築学会と全国建築系大学教育連絡協議会(全建教、ともに竹脇出会長)は6日まで石川県で開かれていた学会大会(北陸)で、「建築士資格と建築教育」をテーマにパネルディスカッションを開いた。改正法の大きな柱となっている建築士試験の受験資格見直しに対しては、パネリストから「学部教育の予備校化」を懸念する意見も出された。次代の教育のあり方については、建築実務の領域が拡大する中、実務との整合性を指摘する声も上がった。
改正法では将来の建築士人材を継続的、安定的に確保することを目的に、受験資格要件の実務経験要件を建築士資格の登録要件に見直した。改正法による新制度では、建築に関する科目を履修して大学を卒業した者は実務経験がなくても1級建築士試験を受験することができる。試験に合格した上で卒業後の建築実務経験が2年以上あれば、1級建築士として登録することが可能になる。改正法は2020年3月1日に施行され、同年の建築士試験から適用される。
4日に野々市市の金沢工業大学で開かれたパネルディスカッションでは、学会と全建教が全国の大学を対象に実施した改正建築士法に関するアンケートの途中集計結果が報告された。受験要件に実務経験が課されないことに対しては、「少しでも若いうちに受験できる方が良い」といった声も一部あったものの、「人材確保という直近の課題だけを見て近視眼的に制度が改善されることについては大変な危惧(きぐ)を感じる」「教育内容が1級建築士の試験対策に偏る可能性がある」など大学教育への影響を懸念する意見が多くを占めている。
主題解説に続く討論では、全建教建築士資格制度検討小委員会の田中友章委員長が進行役を務め、「改正建築士法施行後の次代の建築教育を展望する」をテーマに国土交通省住宅局建築指導課の田伏翔一課長補佐、田辺新一早大教授、日建設計の山梨知彦氏、全建教運営委員会の小林正美委員長が意見を交わした。
田伏課長補佐は、受験者が減少し、建築士の高齢化が進展する中で、新たに建築士となる者の資質を落とすことなく受験機会を拡大するといった改正法の趣旨を説明した。
田辺教授は受験資格見直しにより、「若者が入ってくるとBIMなどに適応できる」と期待を込めた一方、「建築士にどのくらいの展望を振り向けるのかという長期ビジョンが必要なのではないか」と、今後の建築士にかかわる具体的なプランの必要性を指摘した。
山梨氏は、「建築実務の領域は非常に広がっている。1級建築士は設備、構造、意匠に分かれているが、それだけではカテゴリーが足りないという考え方も必要だと思っている」とし、実務と連動した教育の必要性を訴えた。
小林委員長も、「クロスオーバーの部分をどう見ていくのかが今後の課題になる」と、領域拡大への対応を求めた。
指名された会場の古谷誠章日本建築学会前会長は、「建築士法の問題は、建築系の教育機関には重大な関心ごとになっている。若い世代を増やしたいという思いは理解できる。単純に受験機会を早期化することで今回は(法案が)通ったが、本質的なことを考えていかなければならない。過剰に難しい1級建築士試験の方がむしろ問題だと考えている」と指摘した上で、「人材不足を言うのなら、受験機会の確保ではなく、もう少し合格率を上げればいいのではないか。受験生のレベルは昔に比べて上がっている。一定の資質を持った人は合格できる仕組みにしないといけない」と続けた。
建築学科の現状については、「学生は課題が多く、企業で言えばいわばブラックの状況にある。建築学科に進む若者自体がいなくなっては元も子もない」と環境改善の必要性を指摘した。
「私大の大学院としては合格率が高く、資格取得に目が向いてしまって試験勉強で研究が疎かになっている」という都内の大学関係者は、「大学教育の予備校化というより以前に、学生が予備校生化してしまうことが怖い。中堅私大のレベルでは予備校的な教育をしてくれと言われれば、理想ばかり語っていられない。学会として、大学で教える教育の幅はこれくらいという指針があればと思っている」と訴えた。
今後の教育のあり方については山梨氏が、「高度経済成長期に向かう中で建築士の概念が固まったことを改めて考える必要がある。日本では建築にかかわる大きなビジョンがない。それがないと教育の方向性も定まらない。BIMを推進している国はすべて国策で取り組んでいる。試験、教育に閉じた問題ではなく、国策として建築をどう位置付けるかについて大きな議論をしなければならない」との考えを示した。
残り50%掲載日: 2019年9月11日 | presented by 建設通信新聞