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スコープ/東京五輪へ残る課題/猛烈な暑さ対策、設計の工夫で自然の風取り込む
// 本文の表示 画像がセットされていない場合は、画像分の余白ができてしまうのでtxtクラスは使わない。 ログインしていない場合も画像は表示しない。?>選手や観客の安全と健康の確保は2020年東京五輪・パラリンピック成功の鍵を握る。最大の懸念材料は真夏の猛烈な暑さ。国立競技場(東京都新宿区、渋谷区)など新設された競技会場には、施設設計に暑さを和らげる工夫が施されている。だがトライアスロンなどの会場となるお台場海浜公園(東京都港区)は、健康を害するほど悪化した「水質」が問題視された。都らは水質改善に向けた緊急対策を実行中だ。
11月に国際オリンピック委員会(IOC)の意向で五輪のマラソンと競歩の会場を札幌市に変更することが急きょ決まった。やり玉に挙がったのが真夏の酷暑だ。路上で行われるマラソンや競歩ほどではないとはいえ、選手や観客が熱中症リスクを抱えるのは他の競技会場も変わりはない。
屋外競技が行われる施設を中心に、暑さ対策は当初から課題に挙がっていた。完成したばかりの国立競技場は、自然の力を最大限利用し暑さを和らげる設計コンセプトを打ち出した。
スタジアム内部に風を取り込むため、木目調の塗装を施したアルミ製の「風の大庇(ひさし)」を屋根の外周に取り付けた。観客席に流れ込んだ空気は、日射で暖められたフィールドで上昇気流となり、スタジアム内の熱や湿気とともに吐き出される。無風時に備え人工的に風を送る185台の気流創出ファンも設置するなど万全を期す。
都が整備した大井ホッケー競技場(東京都品川区)のメインピッチも、夏場の風向きを考慮した設計を取り入れた。観客席側面の壁などは通風を妨げるため省いた。フィールドから観客席に抜ける風の通り道を確保するため、コンコースの天井材を兼ねる観客席背後のパネル仕上げにスリットを多用している。
期間限定の仮設施設として東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会が整備した有明体操競技場(東京都江東区)。無駄のないデザインを目指したため、観客のたまり空間は外部コンコースしかない。観客席の形状に沿って曲線を描くコンコースの壁面はそのまま大きな庇となっており、海風が吹き込むように計算されている。
さらに涼しさを追求しようと、コンコースの路面には保水性舗装を採用。表層の素材にはアスファルトに代わり廃材を再利用した木のチップを用いた。設計チームを統括した日建設計の高橋秀通氏によると「散水すれば気化熱による冷却効果が期待できる」という。
今夏、各会場で行われたテストイベントで暑さ問題とともに浮上したのが、基準値を超える大腸菌の発生で一部競技を中止せざるを得なかったお台場海浜公園の水質問題だ。都と組織委は対応策として汚水の流入を防ぐ水中スクリーンの設置を検討中。都は夏以降、関係各局に指示し追加対策を急いでいる。
水質悪化の原因は、都心部に整備された「合流式」(汚水と雨水を一つの下水道管に集約する方式)の下水道網にある。汚水と雨水は処理のため水再生センターに送られるが、流入量が通常時の3倍を超えると処理されずにそのまま放流されてしまう。
降雨時の流入量を抑えるため、都下水道局は雨水貯留施設の整備を加速。年度内に完成する「池尻・新駒沢幹線貯留管」の新規稼働などで五輪開催までに対応容量を140万立方メートル(18年度末実績120万立方メートル)まで増強する方針だ。
台場地区に近い芝浦水再生センターなど6施設では汚濁物の除去を高度化する高速ろ過施設も整備している。同局の担当者は「五輪に合わせ少しでも効果を引き出そうと、(間に合わせる)規模感を広げて対応している」と話す。
都港湾局は神津島(東京都神津島村)で浚渫した砂を競技水域にまくことで、水質浄化を図る緊急措置に当たっている。先月契約した同島・三浦漁港の泊地整備工事を通じ、約1・1万立方メートルの砂を同公園まで運搬。今月にも施工者が決まる「令和元年度お台場海浜公園覆砂工事」で20年1月に砂をまく作業に着手し、年度内に完了させる。
五輪本番までの期間が限られる中、「暑さ」も「水質」も抜本的な改善策を見いだしにくいのが実情だ。一方、競技施設の整備をはじめ選手や観客を迎え入れる態勢は整いつつあり、いやが応でも期待は高まる。大会成功へ、残る課題をいかに乗り越えるか。これから正念場を迎える。
残り50%掲載日: 2019年12月17日 | presented by 日刊建設工業新聞