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2020年展望 令和の建設産業を読む/「休み方」ではなく「働き方」/改革の本質を見失うな/水面下に広がる“危機感”
// 本文の表示 画像がセットされていない場合は、画像分の余白ができてしまうのでtxtクラスは使わない。 ログインしていない場合も画像は表示しない。?>2020年、令和2年の年が明けた。ことしは東京オリンピック・パラリンピックが開かれる年でもある。安倍政権は昨年12月、13兆2000億円の財政措置で事業規模26兆円程度に上る総合経済対策と、防災・減災・国土強靱化を強化する19年度補正予算案、公共事業関係費が8年連続増となる20年度予算案を相次ぎ閣議決定した。令和の時代の幕開けとなる20年を展望し建設産業を読む。
20年の足元は悪くない。7月から始まる東京五輪というビッグイベントに対する関心が強まれば強まるほど、国内の景況感をさらに好転させる。建設産業にとっても、事業規模が26兆円にも上る経済対策、19年度補正予算案、20年度予算案、いずれもが建設市場の維持・拡大を見込める内容になっている。
また、期ずれなどで受注額が一時的に落ち込んでも、手持ち高(未消化工事高)は増加基調が続く。全体では収益が大きく低下する要素は見当たらない。余力を持った各社は新たな収益源を確保するため事業領域の拡大や業務改善、処遇向上、下請け関係強化を含めた生産システム再構築など、さまざまな目的で多様な投資を続けている。この傾向はことしもさらに強まるとみられる。
しかし先を見越した取り組みを進める企業トップほど顔つきの厳しさは増している。静かだが水面下で確実に広がりつつある「危機感」が理由だ。
近年、建設産業界の一大トレンドとなった「働き方改革」。人口減少(労働人口減少)+高齢化進行という日本の構造的問題を行政、産業、個社が再認識した結果、人材確保は個社+産業間の競争に発展。担い手を確保・育成できなければ、中長期的に生産システムや企業存続の大きなリスクになると判断して、元請けの大手・準大手、中堅、地元企業から専門工事企業まで一斉に処遇改善に踏み切った。
この処遇改善は企業経営にとって、販売費および一般管理費(販管費)の額・率の上昇につながった。この流れに連動したのが、安倍政権と労働界、経済界が共同歩調を取った「働き方改革」だった。仕事と余暇の両立を目指した働き方改革だが、残業時間の上限規制や有給休暇取得義務化など「休み方改革」的な思考が先行し広がった。
これが、企業規模を問わず企業トップに広がり始めた「危機感」の正体の背景だ。処遇改善は生産性や業務効率などさまざまなコスト削減の積み上げによって実現させるもの。一方、企業の受注競争の源泉もコスト削減だ。技術革新やさまざまな業務効率に取り組み、発注者・顧客の利益につながる提案の究極がコスト削減を伴うコスト競争という側面が民間工事の場合は多い。
この競争の本質がいま、揺らぎかねない状況に置かれていることが危機感を生んでいる。処遇改善だけが先行し、生産性向上につながる省人化など生産システムや業務の効率化が思ったように進まなければ、利益額・率の低下を招きかねない。そうなれば、腐心してきた売り上げ・支出・利益のバランスも崩れる。そもそも、競争の源泉である技術開発や省人化、生産システム見直しなどを元請けが急いでいるのは、過去に経験した「利益なき繁忙」「先のないダンピング(過度な安値受注)」に再び陥らないこともある。
「休み方改革」的思考の「働き方改革」が建設産業に広がることの最大の問題は、元請け、下請け問わず「労働時間を減らす」一方で「個人の収入を増やす」という二律背反に見える問題と「企業の成長を実現する」という矛盾の命題解決でもある。言い換えるとこの命題を解決しなければ、今後の展望がないということの認識を、経営トップや社員、関係企業先までが共有しているかどうかということになる。
この認識を共有できず、休み方改革的思考だけが先行すれば社員、技術者、技能労働者が本来持たなければならない「モノづくり」の役割や目的と社会的使命、さらには所属企業の売り上げや利益につながる成長に貢献しようとする意識さえ薄れさせてしまう。これが働き方改革に対する建設産業の隠れた不安の元になっている。元請各社が入社前と入社後、中堅世代まで各年代ごとにきめ細かな教育を目指している理由の1つでもある。
また、企業トップが「対応が難しい」ことを理由に、もしこの二律背反の課題解決と企業成長実現への努力に背を向けることになれば、劇的に進む産業構造転換そのものに対応することはできない。
労働時間を短くする一方で、賃金をアップさせながら企業は持続的成長を遂げるという大命題への取り組みを始めた建設産業。働き方改革の本質を見失うことなく、身の丈にあった戦略的な取り組みが始まる年でもある。
残り50%掲載日: 2020年1月6日 | presented by 建設通信新聞