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建設論評・しわ寄せは弱いところに
// 本文の表示 画像がセットされていない場合は、画像分の余白ができてしまうのでtxtクラスは使わない。 ログインしていない場合も画像は表示しない。?>昨年12月末、中国に発した新型コロナウイルス感染症の脅威に世界は翻弄(ほんろう)され、爆発的感染急増は衰えない。
中でもイタリアは被害が最も深刻だ。要因の1つに、イタリアが2010年の欧州債務危機以降に超緊縮財政を余儀なくされ、さまざまな分野で無駄の見直しが迫られて医療費が大幅に削減されたことがある。全国でおよそ800カ所の医療機関が閉鎖され、その影響は思わぬところで表れた。
米国は対応の遅れから感染者数が世界最多となり、医療崩壊に陥っているところもある。トランプ政権がオバマケア制度(医療保険制度改革法)の廃止を明確にしたことから、医療保険の未加入者が増えて、弱者の低所得層の医療が厳しいという。
今後はアフリカなど医療制度が脆弱(ぜいじゃく)な開発途上国への感染拡大が懸念される。
日本も爆発的感染急増の危機が迫っている。3月末に東京都知事らは、不要不急と夜間の繁華街への外出自粛を強く要請したが勢いは衰えない。政府は4月7日、法に基づく緊急事態宣言を7都府県に発令した。感染防止に個人の責任ある行動が必須となる。
新型コロナウイルスで操業を停止した企業がある。この時期になって就職の内定が取り消された学生もあった。就職前の学生の立場は弱い。
建設業界もかつてバブル崩壊後の不況時に、新卒者の採用を控えたことがあった。しかし後年、技術者の年齢構成に穴があき、人事配置や技術伝承に大きな支障が生じ、それを埋めるため大きな負担を余儀なくされた。
ところで、建設業では下請負制度から元請けは現場安全への意識が薄く、下請けは自らの責務を忘れ安全管理を元請けに頼る傾向がある。元請けの安全部署は、会社の安全管理全般や安全行事の計画立案から、労働基準監督署等の指導を受け、下請けや現場の労働安全を管理指導する重要な立場にあるが、なぜか社内の位置や発言力は弱い。
一般に建設業の安全は、管理項目(QCDS=品質・コスト・工期・安全)の中で一番弱い位置にあり、「弁当とけがは手前持ち」のとらえ方が業界に長くあった。過去にあった年間数千人規模の死亡災害は、およそ半世紀をかけた地道な努力で、300人を切るまで減少したが、これからも続くことは請け合うことはできない。
今後、建設業は新型コロナウイルスによる社会の混乱から、工事への影響は避けられない。コスト削減や無駄の見直しが迫られた時、真っ先にその対象となるのは安全関連だ。安全は工事の出来映えと利益に直接影響しない。だが後日、昨今のイタリアのように、ボディーブローとして効いてくる。
建設現場では利益と工期が優先で安全対策を欠き、類似災害が多発、元請けは事故災害にも対応が遅れ、現場マンの矜持(きょうじ)も薄れ、折角(せっかく)手に入れた死亡者減少は増加に転じる。これは断じて避けねばならない。
「自らを守り、周りの人を守る」。いまできることは「三密の回避(密閉・密集・密接)と手洗い励行」だ。新型コロナウイルス禍の早期終息を強く願う。
予期せぬ事態が生じた時、しわ寄せはいつも一番弱いところに集まる。 (傘)
残り50%掲載日: 2020年4月14日 | presented by 建設通信新聞